いしゃたま!

□元気なお客様
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「はあ。ちどりは医者先生だべか」

「まだ、見習いですよ」

 小松田屋さんを後にして、同行者さんを伴って忍術学園へと向かう。
 それにしても、タカ丸君と小松田さんが幼馴染みとは知らなかった。
 仲良しみたいだし、二人で並んでいるとふわふわした感じで癒されるな。

「見習いでも、凄いべー」

 同行者さん、錫高野与四郎君は、相模の国の足柄山にある風魔流忍術学校の六年生だそうだ。
 彼も学園に用があって来ていたらしく二人で向かうことにした。私が学園で保健医助手をしていることを話したら、しきりに感心されて、正直照れ臭い。

「さっきは、小松田屋さんに奉公してるなんて嘘を吐いてすみませんでした」

「ええってよー。おらが忍者ですずでーと思うたからだろ、おらがちどりと同じ立場でもそうするだーよ」

 与四郎君はにかっと笑う。さっぱりした気持ちの良い人だな、と思った。

「ちどりは喜三太の事は知ってるかよ?」

「一年は組の喜三太君?」

「そー。あいつも、前は風魔の学校におって、おらの後輩なんだべ」

「へえ!そうだったんだ!!」

「なーんか、補習授業だつって、今年は帰れんべー言うとったなあ」

「ああ……」

 私は苦笑いを浮かべる。
 一年は組の子達のしょんぼり顔と、土井先生の半泣き顔と、山田先生の苦虫を噛み潰した様な顔を思い出した。

「じゃあ、学園に着けば会えますね」

「ああ、久しぶりだーよ」

 この峠を越えれば、学園の競合地区の裏山になる。
 私は額の汗を拭った。

「そーいえば、気になっとんだけども」

「うん?何でしょう?」

 少し前を行く与四郎君が私を振り返りながら言った。

「なして、あん時。野武士ん事なんざ知りたかったんだべ?」

「…………うーん」

 私は、どう答えるべきか困って、曖昧に笑った。
 与四郎君は不思議そうな顔で私を見ていた。


「おっと!!」

 しかし、次の瞬間、はっと表情を引き締め、頭上を巡る。

「ありゃ、しまったー。先回りできんかっただーよ」

 与四郎君の視線の先を見ると、物凄い早さで木々を飛び移っていく人影、小さく腰の曲がった、白髪の、

「お、お婆ちゃん!?」

 私は自分の目を疑った。
 あんな動き、ご老人ができるとは思えない。

「風魔の元凄腕くのいち様だべ。よっと、」

「わわっ!」

 与四郎君が私を抱えあげる。本日二度目である。

「わりぃ。ちっと急がなきゃならんべよ」

「いや、だったら置いていってくれても、」

「しっかりつかまっとれよ!」

「ちょっとおおおお!!」

 与四郎君は困惑している私を無視して走り出す。
 風魔の元凄腕くのいちのお婆ちゃんが学園になんの用なんだろう。

 凄い面倒事の匂いがする……。


 学園の門前に着いた。

「あっ!?与四郎君、下ろして!」

 門の前にさっきのお婆ちゃんが踞っている。

「腰が!腰があああ!!誰か来とくれええ!!」

「大丈夫ですか!?」

「あ。ちょっ、ちどり、」

 与四郎君が何か言いかけた気がするけど、とりあえず先ずはお婆ちゃんだ。

「腰が痛いんじゃあああああ!」

 お婆ちゃんは私を見てそう叫んだ。
 そ、そりゃあ、あんな風に飛び回っていたらそうなるわよね。

「お婆ちゃん、とりあえず、私の背中におぶされますか?」

「おお、有難う娘さんやっ!!」

「よいっしょっと。」

 お婆ちゃんをおんぶして立ち上がる。

「ちどり。成りの割に力持ちだべなー」

「こりゃ!与四郎!!おぬしがまず真っ先に助けんかい!!!」

 お婆ちゃんを背負ったまま門を潜る。

「保健室に行きましょうか」

「喜三太を、喜三太を呼んでおくれ」

「き、喜三太君……?治療をしたら呼びますね」

「今、呼んでおくれええっ!!」

 耳元で叫ばんで下さいな。

「駄目ですよ!早く治療しないと。只でさえご老体は治りが遅いのですから」

「年寄り扱いするでないわ!」

「あ、失礼」

 お婆ちゃんは、まだ喜三太君を呼んでくれとぶつぶつ言っていたけど構わず保健室に直行することにした。

 与四郎君も苦笑いしながら着いてくる。


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