いしゃたま!
□何やらドタバタの予感
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三反田ちどりです。
色々ありまして、つい先日、無期限休職から忍術学園保健医助手に復帰致しましたが、何やら学園内は慌ただしい様子。
「では、今日の記録を発表し合おう。……乱太郎っ!!」
「はいっ二回です!」
「伏木蔵!」
「一回でーす」
「左近は!?」
「三回です!」
「数馬はどうだい?」
「なんと、二回です!……伊作先輩は。」
「ふふふ…………聞いて驚くなかれ、四回だっ!!!」
「「「おおおおおーっ!!」」」
……なんのこっちゃ。
左近君が壁に貼ってある、「落とし穴引っ掛かり回数表」に正の字を書き入れるのを片目で見ながら私は薬を煎じている。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……凄い!合計二十回以下ですよ!?」
「ひょー!凄いスリルゥ!!」
「しかも、伊作先輩の引っ掛かり回数が五回以下だなんて……!」
「これは来てる!皆!!僕達の勝利は目の前だ!!!」
「「「はいっ!!」」」
皆で円陣を組み出しました。患者がいないから大目に見るけど保健室ではお静かにね……。
「……皆さん凄い気合い入ってますね」
文机で書類仕事をされている新野先生にそっとそう呟けば、苦笑が返ってきた。
「予算会議ですからね。毎年こんな感じですよ。」
そう、忍術学園では、夏休みを目前に一学期の予算会議が開催されるそうなんです。
でも、予算会議ってなんなんだ?
「各委員会の面々が会計委員会に予算案の異議申し立てをするんですよ」
「なるほど」
翌日の昼食の席で相席になった尾浜君が説明をしてくれました。
「申し立てというか、あの手この手で予算を強奪するという方が正しい」
「ほ、ほう……?」
鉢屋君が尾浜君の隣で物騒な事を言う。
「各委員会は毎年それぞれ作戦を練って臨むんですよ」
その鉢屋君の隣で不破君が言った。目が合うとぱっと伏せられる。
伏せられた、その意味も何となく分かっている私は、敢えてそれには気付かない振りをするしかない。
「……ああ。それで、保健委員会は落とし穴の引っ掛かり回数の記録を取ってるわけね」
その呟きに、私の隣に座る竹谷君があははと、苦笑いをした。
「保健委員会は毎年予算会議で不運な目に合っているそうですから」
「うん、不運到来の予測を立てると言ってましたね。来るときはどうしたって来ちゃうんだから、予測なんて意味ないんじゃないかって気もするんですけど」
「ちどりさん……以外と手厳しいですね」
久々知君が、竹谷君の横からひきつった笑顔を覗かせた。
「そりゃあ、予算会議自体が私にはちょっと気に食いませんから。……あんなの見せられちゃうと、」
私の視線の先には潮江君率いる会計委員会が昼食を取っている。
まだ小さな一年生二人から、手を熱心に合わせて食前の祈りを唱えている潮江君まで、全員隈が凄まじく修羅のごとき形相だ。
左門君が僕は寝ていないと呟きながら船を漕いでいる。
「そりゃあ、大事な会議なんでしょうけど、育ち盛りの子達があんなに徹夜をし続けるなんて保健医助手としては見過ごせないです」
「とか、言いつつ注意はしないのか」
鉢屋君の指摘に私は肩を竦めた。
「したいけれど、教員は口出し無用と学園長先生から伺いましたから。……皆さんも無茶して怪我はしないでね」
お先にと、お盆を下げて食堂を後にした。
三反田ちどりが食堂から去った直後、五年生の集団に、鉢屋三郎に近づく影が一つ。
「立花先輩」
「……ふむ。やはり、善良を絵に描いた様な奴等だな。思い付きもしていないらしい」
「なら、このまま黙視しておいても宜しいのでは?」
鉢屋は目だけをきろりと、背後の席に座った立花仙蔵に向ける。
「否、牽制が必要な奴等は他にもいるであろう。……鉢屋」
「はいはい、仰せのままに。作法委員会委員長殿。」
そして、鉢屋はぽかんとそのやり取りを見ていた向かい側の二人の友に声を掛ける。
「ハチ、へーすけ。今日の放課後、委員長会議を設置するぞ」
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