いしゃたま!
□動き出したもの
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忍術学園の保健室では、忍たま六年生六人が集結していた。
「なあ、やっぱり私達の誰かが見張りに行った方が良かったんじゃないか?」
七松小平太が部屋を落ち着きなく彷徨きながら少し苛立ちの混じった声で言う。
「向こうが動くまで待つ。それが学園長先生のお達しだ。仕方無いだろう。座れ、うっとおしい」
潮江文次郎はそんな小平太を目で追いながら注意するが、彼自身もまた何かを堪えるような苦い顔をしている。
「伊作。大丈夫か」
食満留三郎は、ぎゅっと拳を堅く握り平静を装うと勤め続ける同室の友を気遣わしげに見た。
「……」
善法寺伊作は黙って小さく頷いた。
中在家長次はじっと窓の外を見ている。
「……願わくば、何事も、無いといい」
その言葉に部屋の者達は一様に目を伏せる。
善法寺はふっと部屋の掛軸に目をやった。
神頼みなど忍のすることではないが、今は願わずにいられなかった。力を入れすぎて痺れている手をそっと開き、密かにそっと合わせた。
その時、立花仙蔵がはっとした様な表情で戸の方に目をやる。
他の五人も、同様にすっと開いた戸を見やった。
「おや、お揃いで」
タソガレドキ忍軍忍組頭、雑渡昆奈門である。
そして、雑渡に抱えられる様に部屋に入って来た男、その顔は彼等が見知る少年に良く似ていた。
「貴方は、三反田数馬の、ちどりさんのお父上ですね」
善法寺の言葉に男はこっくりと頷いた。
「さて、六年生諸君。出番だよ」
雑渡の言葉に六年生達は静かに立ち上がる。
「ヨイヤミとウシミツが動き出した。三反田家の方には、私の部下が向かったけれど、」
「すみません!善法寺伊作君か、保健医の新野先生を!!!」
「……悪い事態の様だ」
雑渡の言葉を遮るようにタソガレドキ忍軍が一人。
諸泉尊奈門が部屋に駆け込む。その腕に抱えられているものを見て善法寺と三反田家の主人は戦慄した。
「数馬!!」
「尊奈門さん!早くこちらに!!」
新野が部屋の奥から慌てて現れて数馬を受けとり畳に寝かせる。
「これは、刺傷ですね。浅いですが、出血が多い」
険しい表情で数馬の服を脱がし、迅速に新野は治療を始める。
「そんな、数馬が……」
「何をやっている、タソガレドキ!!」
「止さないか文次郎!今は争っている場合ではなかろう」
潮江が噛み付くように雑渡に吼えるのを立花が制した。
そんな緊迫した中に、よろめくように一人の女がまた部屋に現れ、三反田家の主人にすがりついた。
「お前……!」
「ああ、あなた。どうしましょう……!数馬が…………ちどりが!!」
善法寺はすっと血の気が下がるのを感じた。
汗が冗談のように吹き出す。
自身にとって今最も守るべき彼女の、あの柔らかい笑みが頭を過った。
「尊奈門、何が起きている」
雑渡の問いに諸泉は悔しげに答えた。
「日ノ村が、校医助手殿を連れ去って遁走しました」
雑渡はそれを聞いて、緩く首を横にふる。
「ああ、やれやれ……。勝手な奴だ。残りの者達は追っている訳だね。場所の予測は?」
「アサヤケ山かと」
先日の実習地の名前に部屋の六年生達は顔を見合わせる。
「……私のせいだ」
三反田家の主人、数馬の父は顔を手で覆いながら深く息を吐く。
「あんな、産着など、捨ててしまえば良かったのだ」
「……父、さん」
「三反田君!まだ起きては!!」
新野の制止を無視して数馬が半身を起こし、父を見つめる。
「数馬、」
「父さんは、悪くない、母さんも……姉さんも悪くない……僕達家族は誰も、悪くなんて、ない……!」
雑渡はそんな数馬をじっと見つめ、静かに口を開いた。
「三反田数馬君。まさか、君は知っているのか」
数馬は肩で荒く息をしながらも確かに一つ頷いた。
「……はい、ちどり姉さんは、僕とは、三反田家とは血が繋がっていません」
数馬の父は顔を歪め、母の嗚咽が、部屋に高く響いた。
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