いしゃたま!

□突然の手紙
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捏造三反田両親が出てきます。



「ちどりちゃあん。お手紙だよお」

「あら、小松田さん」

 ある日のお昼過ぎ、事務員の小松田さんが手紙を片手に保健室の戸を開いた。

「私に?」

「そう。ご実家からみたいだよ」

 渡された文には確かに父様の名前。いったいなんだろうか。
 私はふっと周りに目を配る。生徒は来ておらず部屋には私と新野先生しかいない。

「新野先生、ここで開いてもよろしいでしょうか」

「ええ、勿論です」

「有難うございます」

 開かれた文に書かれた内容に私は目を見張った。

「え?」

〈この度父は腰を痛めた。母さんだけでは心配だからすまないが暫く帰って来てくれ。〉

「な、なんのこっちゃ!?」








「で、明日からご実家に戻られる、と?」

「ええ、そうなんです。まったく私の父ときたら情けないでしょう?」

 放課後にやって来た保健委員会の子達に伝えると皆、きょとんとした顔をした。

「新野先生、暫くご迷惑をおかけします」

「構いませんよ。どうかお父上に宜しくお伝えください」

「ちどりさん、学園からいなくなっちゃうんですかあ?」

「寂しくなっちゃいますね」

「一月ぐらいで帰って来るわよ」

 眉をしゅんと下げる乱ちゃんと伏ちゃんに苦笑しながら頭をよしよしと撫でる。

「あの。それは学園長先生は……」

 善法寺君が私に問う。
 その表情は何故か僅かに狼狽えているように見えた。

「勿論、了承済みですよ。後、今回は数馬も休学して一緒に帰ることになりました」

「ええ!数馬先輩まで!?」

「まあ、僕の場合は授業もあるから七日間だけなんだけどね。姉さんと母さんだけだと僕も心配だからさ」

「という訳で姉弟揃って暫くいなくなりますが、よろしくお願いします」

「そうですか。」

 善法寺君はちらりと横目を使い、新野先生を見た。新野先生は、微かに頷いた様に見えた。

「……善法寺君?」

 少し怪訝に思った矢先に善法寺君は此方に目を戻しにこりと笑う。

「いえ、そういう事でしたら良く効く湿布薬を持たせます」

「……有難う」

 何時もの優しい笑みに気のせいだったかなと思った。














「おお、ちどりに数馬まですまんな」

 翌日家に帰りつくと父様は布団にうつ伏せになりながら顔を此方に向ける。
 布団の周りには本が散乱していて意外と元気そうで安心した。

「どれ、母さん。二人にこないだお客に貰った茶をあだだだだだだ!痛い!!本当に痛い!母さん!!」

「ああ、もう。お前さんたら無理しないで下さいな」

「ちょっと、父さん大丈夫なの!?」

 母様が慌てて駆け寄り半身を起こした父様の身体を支える。

「まったく、母様の言うとおりですよ。父様も結構お年なのですから」

「何だと馬鹿娘」

 口は悪いが父様の顔は笑顔で、私もそんな他愛の無いやり取りが何だか懐かしくて顔が綻ぶ。

「思っていたよりお元気そうで安心しました。暫くは私と数馬に任せてゆっくりなさって下さいな」

「うむ。苦労を掛けるな」

 父様はどさりと布団に身体を横たえた。

「さあさあ、二人とも疲れたでしょうけれど、すこしだけ父さんの話し相手をしてあげてね。夕食の仕度をするわ」

「あら、母様。私も手伝うわよ」

 母様と二人連れだって土間に立つ。

 その背後で、父様と数馬の話し声が聞こえた。

「して、学園はどうだ数馬。しっかり励んでいるか?」

「勿論。こないだの試験では学年十位以内に入ったよ」

「ほほう、それは凄いじゃないか」

「ええ、本当に」

 母様もにこにこと、誇らしげに数馬を返り見る。

「学友は皆元気か」

「うん!そう言えばこの間さあ……」

 楽しそうな数馬をうんうんと頷きながら見ている父様の目は優しい。温かい気持ちになった。

「で、姉さんの方はどうだ?ちどりはちゃんとやれているのか? 」

 数馬は私をちらりと見る。

「……うん。勿論だよ!」

「何か、間がなかったか今」

「ちょっと!数馬!?即答してよそこは!!」

「あらあら、まあまあ」

 母様の笑いがころころと響いた。
 そんな風に騒がしいやり取りのあと、久し振りに家族皆で食べる食事はとても美味しかった。

「うん、やっぱり家は落ち着くわね」

「お前、またそんな事言って……」

 父様が、溜め息を吐く。
 その先に言わんとする言葉が分かっていたので、私が先に口を開いた。

「あ、すみませんが、婿殿は見つかりませんでしたよ」

「まあ、そうであろうな」

「え!父さん!?」

 数馬が父様と私の顔を見比べている。

「まあまあ、お前さん。その様に焦らずともちどりにも好い人は現れますよ」

 ねー。と母様と顔を見合わせた。
 数馬が何か言いたげにこちらを見ているが気にしない。

「母さんは呑気すぎるなあ」

 そう言って父様はゆっくりと汁を啜った。

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