いしゃたま!
□実習地にて
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「ちどりさん!包帯が足りなくなりそうです!」
「手拭いがあるから、それを代用して。後は古着を貰ってきて、それで作りましょう」
「姉さん。打ち身の薬ももっと作った方が良いかも」
「ああ、そうね。数馬、お願いできる?」
「すみません、そっちあけてください!」
「ちどりさん、こっちもお願いできますか?」
六年生の第一陣が帰って来た。
彼等は比較的軽傷の集団だったけれど、それでも人数が多い事に変わり無い。
数馬率いる三年生、左近君率いる二年生の子達が手伝ってくれているが、結構てんやわんやだ。後からくのいち教室の子達が応援に来てくれるらしい。
「よ、忙しそうだな。ちどりさん」
「……食満君!!」
作兵衛君に支えられて食満君がやって来た。
「作兵衛、一人で歩けるぞ、大袈裟だ」
苦笑しているが、太股の切り傷が痛々しい。頭巾を止血帯にしているが血が滲んでいた。
作兵衛君にお湯を持ってきてと指示をして、頭巾を外す。
浅いけれど、おそらく刀傷だ。
「……何があったかは聞いても良いのかしら」
「ああ、俺も良く状況が飲み込めてないんだけどな」
お湯で傷口を洗い、薬をつけて綺麗な布を巻き直していく。
「見覚えの無い忍者の襲撃にあった」
「え?」
思わず手が止まった。食満君は苦い顔をしている。
「殆ど雑魚の野武士みたいだったが数が多かった。後、その中の数名は忍者だ、しかも相当の手練れだ」
「見たことねえって、食満先輩、なんでそいつらは襲ってきたんですか?」
作兵衛君が不安な顔をしている。
「さあ、分からん。ただ、不味いことにあいつら、こっちが忍術学園の生徒だと分かってやがる」
「どういうこと?」
「言いやがったんだよ。忍術学園に天誅を下すとさ」
なんとも物騒な話だ。作兵衛君が青い顔をしている。
「んな顔すんな、作兵衛。殆どこの俺が蹴散らしてやったから、でも、先生方にはご報告に行かなきゃならねえ。ちどりさん、治療が終わったら一度ここを離れても良いか?」
「え、ええ。大丈夫よ」
私は急いで食満君の治療を終わらせた。
「有難う。では」
「あの、食満君」
「ん?どうした」
「……いえ、何でもありません」
新野先生は……そして、善法寺君は、と聞きそうになった私は唇を強く噛んだ。
聞いたって何になる。未だここに帰って来ていない、それこそが事実だ。それよりも次から次へとやってくる彼等の治療が優先だ。
不安をぬぐい去る様に頭をぶんと振った。
「七松先輩!?先輩!!お待ち下さい!!!」
正門の方角から滝夜叉丸君の叫び声。そして、この激しい足音は、
「七松君!」
「ちどりちゃん!一緒に来てくれ!!」
部屋に集まる人々を蹴散らす勢いで七松君がやって来た。特に目立つ怪我はしていないようだ。
「来てくれって、何処へ?」
「文次郎が、大変なんだ!」
「文次郎って、潮江君……何があったんですか?」
「撃たれたんだ!」
その言葉に部屋の中がざわついた。
撃たれた、それは、つまり、
「……鉄砲」
「頼む!助けてくれ!!」
「っ!、分かりました。潮江君は今何処に?」
「実習地にいる!」
私は急いで必要な治療具をかき集める。
「ま、待って姉さん!七松先輩、実習地にちどり姉さんを連れていくおつもりなのですか!?」
数馬が慌てて私の肩を掴み、七松君に問いかける。
「そうだ」
「そんな!」
「七松、それは危険すぎるぞ」
「ちどりさんは保健医とはいえ一般人じゃないか」
「先輩、あちらは現在敵地です。新野先生はどうされているのですか?」
部屋の中の六年生達や追いついた滝夜叉丸君が七松君に詰め寄る。
「……新野先生がおられる廃寺が何者かに襲われた様で、見つけられなかったんだ。ちどりちゃんにしか頼めない」
私は小さく息を呑む。そんな、まさか新野先生が……。
「ちどりちゃん」
七松君は真っ直ぐ私を見ている。
私はかき集めた治療道具を風呂敷でぎゅっとくるんだ。
「ええ、大丈夫。すぐ行きましょう」
「姉さん!!」
数馬が私の前に立ち塞がる。
「危険だって事が分からない!?責めて先生方に頼むか、潮江先輩を此方に連れてくるか、」
「数馬。七松君が単独で此処まで来たということは、潮江君は現在動かせる状態じゃないということなのよ……そうですね。七松君」
「ああ」
「約束を守ってくれて有難う。ねえ、数馬。此処に治療ができるであろう人間がいて、それを頼りに危険を掻い潜って戻ってきた人がいるのに、聞き入れないのは筋じゃないでしょう」
「でも、」
「鉄砲傷なら急を要します。数馬、すぐに戻るわ。学園長先生に伝えてきて、その間保健室を頼んでも大丈夫ね?」
数馬は私の顔をじっと見てから大きな溜め息をついた。
「……分かった。ですが七松先輩、ちどり姉さんに決して危険が及ぶことのないと約束をしてください」
「ああ、勿論だ!ちどりちゃん、悪いけど抱えていくぞ」
「まあ、その方が早いでしょうね……」
予想はしていたけれど、七松君の速度に対してちょっと不安になる。
横抱きにされて、私は舌を噛まないように手拭いを噛んだ。
「飛ばすぞ!!!」
「……っ!」
がくんと身体が揺れ、景色が有り得ない速さで遠ざかっていく。
目を回しそうになったので私はぎゅっと目を瞑った。
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