いしゃたま!

□赤色眼鏡の再来
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 田植え休み三日目。
 新野先生を初めとした先生方は少しは休みなさいと仰って下さったけど、正直働いてないと暇でしょうがない。

 今日は各教室、長屋、演習場の置き薬の確認と補充をすることにした。

 学園の敷地は広いけれど、丸一日あれば充分だろう。

 補充用の薬を風呂敷に包んで、では出発。
 まずは、ここから一番遠い演習場を目指す。


「ふう。やっと着いた……ってあれ?」

「ちどりちゃんだ!」

「今日はちどりさん」

 六年生の面々が組手の特訓中だった。
 七松君、立花君がにこやかに挨拶してくれた。他の皆も会釈してくれる。……潮江君は、ちらっと一瞥(いちべつ)したぐらい。

「こんなところまで何をしに来たんだ?」
 
 不思議そうな食満君。

「置き薬の補充に」

「それは、わざわざ有り難うございます」

 演習場近くの倉庫の薬置き場を見る。
 駄目になってるものは回収し、新しいものと変えた。止血帯もいくつか入れておく。

「これで良し。じゃあ、お邪魔しました」

「……まさか、学園中を、廻るおつもりですか……?」

 中在家君が心配そうに聞いて来た。

「うん。一日あるし、いけると思って」

「それは、大変ですね!では、保健委員長の善法寺を手伝わせるというのはどうですか?」

「え?」

「せ、仙蔵……!」

 立花君が急に勢い良くそう言いながら善法寺君の肩を叩く。

「そうだな!!いさっくん!ちどりちゃんを手伝ってやれよ!」

「小平太まで……」

 善法寺君、あわあわと顔を赤くしている。
 あー、これってまさか、

「ほら、伊作」

「えっ…えーと、あの。ちどりさん、よっ、良かったら、」

「あ。いいよいいよ。私が勝手にやってることだし、善法寺君は鍛練に集中して!邪魔しちゃ悪いもの。じゃ、私はこれで」

 彼の言葉におっ被せる様にそう言って、演習場を足早に後にした。


「あ……」

「これは、まあ」

「……前途多難、だな」

「っ君達!!面白がっているだろう!?」

「「当然だ。」」


 とかなんとか
 そんな会話があったとかなかったとか。

 私は次に手裏剣の練習場を目指し早足で歩く。

 まさか、善法寺君の告白が六年生の皆にばれているなんて思わなかった。
 善法寺君や彼等にそこまで悪気はないとは思うが、そういった囃子(はやし)だては正直不愉快だ。

「……怒っても仕方ないけどさ。野暮ってもんじゃないのまったく」

 ぶつくさ文句を言いながら足を早める。罠の印を避けるのももう馴れたものだった。


「「「たすけてー」」」

「ん!?」

 今、助けを呼ぶ声が複数。声の感じからいって一年生か。
 ざっと目を辺りにやると、道端に空いた穴から声が聞こえる。

「ちょっと!足を踏まないでよふぶ鬼!!」

「仕方ないだろー!この落とし穴狭すぎ、」

「君達、大丈夫ですか?」

「「「あ!!」」」

 小さな穴を覗けば四人の子供達がみっちりと詰まっている。
 穴自体の深さは大したことがなさそうだが、どうやら大きさが絶妙過ぎて身動きが取れないみたいだ。


「はい、これに掴まって」

 手拭いを取りだし、穴の中に腕を思いっきり伸ばして垂らす。

 一番背の高い、細面の男の子がなんとか掴んだ。

「よいっ……しょ!」

 ずるっと引き抜き、穴の外へ。

「あー、狭かった!!」

 隙間ができたので残りの子達も身動きが取れるようになった様だ。
 よいしょ、よいしょと穴をよじ登り出す。先に出た男の子と私もそれを手伝いながらやっと四人全員が外に出た。

「助かったあー!」

「お姉さん、どうも有り難う」

「どういたしまして」

 どこの子達だろうか。一年生にこんな子達はいなかったはず。
 それにその赤い色眼鏡はすっごい見覚えがあるな……


「ねえねえ、しぶ鬼。この人じゃない?」

「うん、きっとそうだよ!」

「校長先生が仰ってたとおりの人だもん」

 子供達は何やらひそひそ話をして、私の方を一斉にくるっと見る。

「お姉さんは忍術学園の保健医助手の三反田ちどりさんですか!?」

「う、うん。そうだけど?」

 私の答えに子供達はワアッと盛り上がる。

「ちどりさん!初めましてっ僕達、」

「「「あー!ドクタマのしぶ鬼、いぶ鬼、ふぶ鬼、山ぶ鬼!!!」」」

「「「一年は組の金吾、喜三太、三治郎!!!」」」


 どく……たま?
 忍者のたまごが忍たまなら彼等は、

「ドクタケ忍者のたまご?」

「そうでーす!」

 一人だけいる女の子が元気良く返事をしてくれた。
 ん?いやいや確か、ドクタケと忍術学園は敵対関係にあるってはっぽーおじさんが言ってたけど、
 ああ、ほら、案の定お互いに睨みあってるじゃないか。

「き、君達、喧嘩は……」

「「「ひっさしぶりー!!」」」

「「「そっちこそー!!!」」」

「だあっ!?」

 思わず転げた。

「ちどりさん、ずっこけるの上手ですね」

「ははは……。有り難う」

 なるほど、子供の彼等にはそんな大人の事情は関係ないということか。


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