いしゃたま!
□懇願
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土井先生から呼び出されて告げられた通達に私は拳をぎゅっと握った。
部屋に集まる五年生、四年生達も動揺している。
「六年生の先輩方が揃っているというのに、いったい何があったのですか?」
「まさか、七松先輩は……先輩方は皆さん御無事ですよね!?」
「……善法寺先輩」
消え入りそうに掠れた声に隣を見る、小さく震えている数馬の手をぎゅっと握った。
すがるように見上げる数馬に大丈夫の意味を込めて頷く。
「土井先生」
私が呼び掛けると彼はあの何時も優しい目に険しいものを込めていて、これが本当に有事の時であるのだと自覚した。
「保健室を完全解放と仰いましたね。中継地に新野先生がおられる筈ですが、此方に戻って来られるのでしょうか?」
土井先生がふっと目を伏せる。
その表情は暗い。
「……現在は中継地と連絡の着かない状態にあります」
部屋に集まる生徒達がその言葉に大きくざわめく。
「お前達落ち着け。そちらには助っ人を向かわしている。きっと大丈夫だ」
それでも彼等は不安気に顔を見合わしている。
「ちどりさん、御願いできますか?」
「はい。御安心下さい。既に薬等の用意はしておりますから」
数馬。と隣の弟の頭をそっと撫でながら笑いかける。
「手が足りなくなった時の為に三年生の皆に一応声をかけておいて。後、一年生には極力保健室には近づけないようにしておかないとね」
「……姉さん」
「大丈夫よ。きっと大丈夫」
根拠の無い言葉だけれど、それを信じさせるような、安心させるような声色を意識しながら話す。
それから部屋の五年生、四年生達に顔を向けた。
「鉢屋君、不破君、竹谷君。私からも、六年生をお願いします。でも、どうか気を付けて行って来てくださいね」
「……はい」
「分かっているさ」
「任せてください」
三人は頷き、土井先生に一礼し、部屋を後にした。
「さてと、学園のお守り隊の皆さん」
「お……、」
「お守り隊?」
五年い組と四年生の子達がきょとんとした顔で私を見る。
「そ、忍術学園お守り隊。皆さんは優秀だから大丈夫だろうけど、怪我したら無理せずこっちに来るようにしてくださいね。薬と包帯は大量にあるから遠慮しないでね」
「……優秀。っそうですとも!この優秀な滝夜叉丸がおるのですからこのお守り隊に死角無しです!!」
「何を言っている!僕とユリ子でこの学園に近づく輩を一掃してやるからな!!悪いがお前の出る幕はないぞ!」
「アホ夜叉丸、バカ衛門煩いよ。取り敢えず罠を増やして良いって事ですね」
「ふふふ。お守り隊かあ。頑張らなくちゃね」
「籠城なら一度経験住みですから、安心して任せてください!!」
四年生達が、元気に息巻いた。
「あーあ。単純というか、血気盛んというか」
「俺達は四年生を暴走させないように気を付けないといけないな」
尾浜君と久々知君がふっと笑う。
「ちどりさん、お守り隊にお任せください」
「下級生を不安な気持ちにはさせないと約束しますよ」
二人は私の目を見てしっかりと頷いた。
「さ、お前ら。取り敢えず今後の動向を決めるぞ」
「斎藤、綾部がどっか行かないよう押さえとけよ」
「うん、喜八郎。あちこち掘りすぎないようにね」
「えー……トシちゃん作りたい」
四年生と五年生がざわざわと騒がしく出ていった。
「姉さん、僕も三年生の皆に声かけてくる」
数馬もぱっと立ち上がり走り出した。
部屋には土井先生と私が残され、数馬を見送った私はゆっくりと左手の拳を開く、それはじんわりと痺れていた。
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