いしゃたま!

□それは否応なしに
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 田植え休みも明け、早々だというのに、六年生達に実習任務が言い渡された。


「……無理するなとは言わないけど、気を付けて、頑張って来てね」

「無論です」

「ちどりちゃんは心配性だなあ」

「気は抜けないが、内容はいつもとそう変わらねえから」

「……善処します」


 保健室に実習用の携帯薬や毒薬等を貰いに来る生徒達はみな一様にそう言って笑う。
 そうは言っても、私は詳しい実習の内容は聞かされていないし、正直心配でしかたない。

「薬」

 潮江君も来た。相変わらず厳めしい顔をしている。

「はい、どうぞ。……頑張って来て下さいね」

「…………」

 無言だったが微かに頷いた、様な……気がする。うん、まあよし!


「では、僕もそろそろ出ますね」

 保健室で私の手伝いをしていた善法寺君も立ち上がる。

「善法寺君、」

 彼はぱっと私を見る。
 平静を装おってるんだろうその目は僅かに緊張しているのが素人目に見ても分かる。

 あの夜の一件はあれからお互いに口に出すことはしていない。
 善法寺君が態度を変えないでいてくれることが有り難かったが、それでも二人きりになると少し固くなるのは否めなかった。

「善法寺君も無茶しないようにね」

「ええ、行って来ます。」

 どうか無事で、という言葉は飲み込んだ。
 言ってしまうと叶わない様な気がしたから。


「行きましたか」

「不破君」

 保健室の戸口に立っていると不破君が廊下をやってくる。

「貸出し期限の本を預かりに来ました」

「ああ。ごめんなさいね。ちょうど持ってますから、待ってて」

 保健室の私の机の上にある本を不破君に渡す。
 不破君はふっと眉を下げて笑う。

「大丈夫ですよ。先輩方は強いですから」

「……そんなに、心配そうな顔をしていましたか」

「ええ、少し。本当に大丈夫ですから」

 不破君がそう柔らかく言うと大丈夫な気がしてきた。

「そうだね。有り難う」

「こら、ちどり。私の雷蔵と何仲睦まじくしてるんだ」

 出たな鉢屋君。
 雷蔵君を後ろからばっと抱きついてこっちを睨む。

「何時から君の不破君になったんですか鉢屋君」

「うむ……確かに語弊があった。雷蔵が私のものではなく、寧ろ私が雷蔵のものと言える」

「じゃあ、何時から君は不破君のものなのよ……」

「この世に生を受けた時からに決まっているだろう」

 頭痛い会話だなこれ。
 不破君はそんな鉢屋君に何言ってんだよー、とか苦笑はすれども回された腕を払おうとしない。
 前から思っていたが、不破君を始めとした五年生の面々は、この形の大きい甘えん坊に大概甘い。

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