いしゃたま!
□誤解というかなんというか
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どうやら、今、学園内には「三反田ちどりさんは土井先生に懸想している」という噂が立っているらしい。
色々、尾ひれがついて一年は組の良い子達には「お嫁さんになりたい」にまで飛躍していたけれど。
噂の出どころは思い付く限りひとつしかない。
一昨日の、くのいち教室の女の子達とのお茶会の一件を思い出した。
彼女達が噂を流したのであれば、苦言を述べるべきだろうか。
だが、それよりもまず、仕事上の上司である新野先生と話をしなくては。
新野先生にあらぬ誤解を受けているのなら非常に困る。
「あの、新野先生」
「どうしました?ちどりさん」
「今。学園内に流れている私の噂についてなのですが……」
「ああ、なかなか大変な事になっていますね」
と苦笑される新野先生。
「お恥ずかしい限りです。弁解の様になってしまいますが、誤解といいますか、ちょっとした行き違いといいますか……とにかく事実では無いのです」
「ええ、私を含む教員の方々は事実だと思っていませんよ。あくまで生徒が立てる噂には我々は惑わされません」
「そうですか」
良かった。安心してほっと息を着いた。
「ですが、生徒達の中には真に受けている者も多いみたいですね。ちどりさんには少々辛い状況かもしれません。……噂が沈静化するまで、出勤を控えてみますか?」
「いえ、大丈夫です。この一件は私にも原因があるので。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いえいえ。何かあったら相談に乗りますからね」
一先ず、新野先生に誤解されていないので安心した。
その後も、保健室に来る生徒達に何とも言えない表情で顔を見られたり、直接問いただしてくる子もいて、誤解ですと伝えても半信半疑な雰囲気だったりと、いつもの仕事より余計な神経を使った。
くのいち教室の女の子達にはどう対応しようか。ちょっとくたびれた頭で思案していると、
「「「ちどりさ〜ん」」」
向こうから来てくれた。
ユキちゃん、トモミちゃん、おシゲちゃんが部屋の入り口で手を振っている。
「新野先生、少しの間席を外しても良いでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
すぐ戻ります。と伝えて、三人の女の子達の元へ向かう。
ここじゃあれだから、と言うと三人は素直に着いてきた。
人気のない裏庭まで行き、三人に向き直る。ああ……気が重い。
「……あなたたち、」
「ちどりさん、どうですか!?」
「学園内に噂が広まってるでしょう?」
「いや、どうですかって……」
苦言を述べようとした私は、彼女達の表情を見て、少し言葉に詰まる。
ユキちゃん、トモミちゃん、おシゲちゃんは私の顔をきらきらした顔で見ている。悪意のない、期待に満ちた顔。
「先ずは、外堀から埋めるべきだと思ったんでしゅ〜」
「そ、外堀?」
「土井先生も満更でもない反応でしたよー!」
「これを好機に押しきっちゃってください!!私達、皆で応援しますから!」
「土井先生は奥手な方でしゅから、周りから固めた方がきっとうまくいきましゅ」
思わず、身体の力が抜けてしまった。
彼女達は悪意や悪戯心でも何でもなく、善意で、私のあの発言を素直にとって、土井先生との仲を取り持とうと行動を起こしていたのだ。
これは思ったより質が悪い。
「ちどりさん……?」
私の困惑が思いっきり顔に出ているんだろう。
三人は少し、不安気な顔で私を見つめている。
「……気持ちは、ありがたいよ」
ああ、ほら、またそうやって曖昧なことを言う。
はっきりと迷惑だと伝えるつもりだったのに。
「でも私は、土井先生とそういう仲になりたいわけでは……ない、と、いうか。なんというか」
彼女達の好意を目の当たりにして、言葉を濁してしまう。
「ちどりさん、土井先生をお好きではないのでしゅか?」
三人とも物凄く不安そうな顔だ。
困った。どうすれば角が立たないんだろう。
……仕方ない。ここは、一先ず。
「……ほ、ほら。私は、やりたいことがいっぱいあるし、特定の誰かと恋仲になるつもりはまだあまりないの。まあ、あなた達の気持ちはありがたいから、ちょっとこれからの動きを様子見してみます」
名付けて、「大人の女対応余裕ありげな微笑みつき」だ。
「ああ、なるほど〜!」
「流石、ちどりさん。格好いいでしゅー」
良かった。これで正解らしい。
三人の顔に笑顔が戻った。
「じゃあ、私は、仕事があるから」
三人に大人の微笑みを振り撒いて、保健室まで足早に戻る。
彼女達が見えなくなったところで大きく溜め息を吐いた。
「どうすんのよ、もぉ……」
頭を抱えてしまった。
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