いしゃたま!
□夜中のお茶会
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夢を見ている。
それは、幼い頃の私と、彼。
(与助兄ちゃん!)
夢だと自覚しながら懐かしい笑顔に涙が出そうになる。
(ちどりね。与助兄ちゃん、大好き!!)
現実の泣きそうな私を知らないまま、幼い頃の私は無邪気に笑う。
でも、夢の中ですら月日は流れている。
夢らしく皮肉にも現実に反する早さで。
(与助兄さん)
見ているしかできないのだ。
夢の中の私も、それを見ている現実の私も。
(与助兄さん、わたし、私ね)
彼は笑う。
優しく、とても優しく。
(ちどりちゃん)
あまりに優しくて、幼子を慈しむ様な笑顔。
幸せに輝いている微笑み。
(おれ、縁組が決まったんだよ)
そこで、目が覚めた。
「いけない、寝ていた」
もう夜半過ぎだろうか、部屋の明かりが少し弱まっている、油が勿体ない。
手元の本に目を落とす。
うん。よだれも落ちてないし、汚れてもいない。
なにせ、保健室からお借りした新野先生手記の本だ。
学園に来て一週間以上が経った。
私は毎晩、仕事が終わると保健室から借りてきた本で、薬草の効能や、外傷の処置方法について勉強している。
中でも、金瘡と呼ばれる技術……大きな怪我をした時、刀傷や鉄砲による怪我に対しての治療は私がかねてから学びたいと思っていたものだ。
いつ、どこで、戦の火が起きるか分からないような世の中だ。
そんな世の中で医者になるのなら、きっと必要な知識だと、今は特に外傷処置の方法に力を入れて勉強している。
「……にしても、嫌な夢だったな」
しばらく彼の事は夢に見なかった筈なのに、学園に来てからちょくちょく見るようになった。
正確に言えば、鉢屋君と初めて会ってから。
鉢屋君め。人が忘れようとしていた事を掘り起こして。
……でも。
本当は鉢屋君のせいでもないのは自分でも分かっている。
結局、きっかけさえあれば、また苛まれるほどに、忘れることができていないのだ。
そんなことを悶々と考えていたら、ふと、扉のすぐ向こうから声が聞こえた。
扉のすぐ向こうから聞こえる声は、可愛らしい女の子達の声だった。
「ねぇ。誰が声をおかけするんでしゅか?」
「はい、はい。私が良い!」
「ずるい、ユキちゃん、私も最初に声をおかけしたいわ!」
ひそひそとした声達はなんだか軽く揉めているみたいだ。
「三人一緒に一斉に声をおかけしたらどうでしょう?」
「それが、良いわね。」
「うーん。仕方ないわね、じゃ、せーのっ!」
「「「三反田ちどりさぁーんっ!」」」
「はいっ!?」
いきなり名前を呼ばれて、すっとんきょうな声をあげてしまった。
「お邪魔してもいいですか?」
「え、うん、はい。どうぞ。」
部屋の扉が開かれ、入って来たのは、寝巻き姿の可愛い女の子三人。
私が男だったら目のやり場に困る光景だ。
「あなた達、もしかしてくのいち教室の……」
「はい!初めまして。くのいち教室のユキでーす」
と、ふわふわの癖毛でちょっとつり目の女の子。
「トモミです。夜分にすみません」
綺麗なさらさらの髪をした女の子がぺこりと会釈する。
「おシゲでしゅ。ちどりさん。今、お忙しいでしゅか?」
他の二人に比べて小柄でふっくらした女の子が、こてんと首をかしげた。
「今?うーん……特には」
私の答えに対し、ユキちゃんがニコッと笑いながら言った。
「今、私達くのいち教室の皆でお茶会をしてるんです」
「お茶会?」
「ええ、お茶と、お菓子を食べながら、色んなお話をしてるんでしゅ」
とおシゲちゃん。
「もし、お忙しくなければ、ちどりさんも遊びに来て頂けたらなって……どうですか?」
とトモミちゃん
そして、三人の期待に満ちた眼差し。
うーん……どうしようかな。
さっき、勉強を中途半端なところで寝て中断させてしまっている。
でも、少し息抜きもしたい気分。
後、目の前の三人の可愛い女の子達の期待を裏切るのも偲びない………うん、よし。
「……じゃあ、お邪魔させてもらおうかな。」
三人の顔がパッと輝いた。
「ぜひ!」
「皆も喜びましゅ!」
三人に連れられて部屋を出るのだった。
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