いしゃたま!
□とりあえず日常は続く
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「うん、思ったより治りが早いですね。このぶんだと後二日で添え木を外せるかもしれません」
「本当ですか?」
「ええ、ところで」
「ん?」
「鉢屋君、邪魔なんだけど」
「ちょうど良いところに背もたれがあったんでね」
鉢屋三郎が私の背中にべっとりと体重をかけもたれ掛かっている。
重いしなかなか不快だ。
あれから、不破君の捻挫の経過を見る時に毎回、鉢屋君は不破君に着いてくる。
不和雷蔵あるところ鉢屋三郎あり。だからだそうだ。
仲の良いことは大変よろしいのだが、鉢屋君は来る度にいらんちょっかいと地味な嫌がらせをしてくる。
「重いし暑苦しい。早くどいてください」
「ちどりの背中って結構肉付き良いよな」
「呼び捨ても止めなさい」
不破君に、こいつを何とかしろと視線を送ると苦笑いされた。
「三郎、行くよ」
「ああ、雷蔵」
不破君の呼び掛けに鉢屋君はあっさり私から離れた。
「雷蔵、肩を貸そう」
「杖も外れたんだから、自分で歩けるよ」
不破君にそう言われながらも、鉢屋君は不破君のすぐ側、僅か後方にぴったり寄り添った。
不破君が倒れたり、躓いてもすぐ支えられるような位置だ。
そうして、二人、連れだって保健室を出ていった。
「本当に仲が良いですよねえ」
ふうと溜め息を着くと、新野先生もふっと笑った。
「ちどりさんも、随分と鉢屋君に気に入られましたね」
「まあ、そうなんですけど」
やることが子どもみたいで、少々うっとおしいのだ。あの日の様に、痛いところを着いてくることは無いにしろ。
「新野先生、今日の放課後は保健委員会ですよね」
「ええ、健康診断の準備と、薬草干しをしましょうか」
学園に来てから初めての委員会。保健委員会には数馬もいる。ちょっと楽しみだ。
さて、放課後。待ちに待った委員会。
なのに私は今、非常に困惑していた。
「……どうしてこうなった」
部屋のなかは、さながら大風が吹き荒れた後の様な状態だった。
えーと。確か数刻前、委員会が始まったすぐに、伏木蔵君、乱太郎君が丸薬を転がしてしまい、それをお茶を組んできた左近君が踏んでお茶をぶちまけて、お茶を被った数馬を助けようとした私が動いた弾みに善法寺君にぶつかって……
部屋の奥から様子を見に来た新野先生の穏やかな笑顔が少しひきつっている。
「数馬。火傷してない?」
「大丈夫。ちどり姉さんも怪我はない?」
「数馬先輩、すみません」
「いや左近も転けてたけど大丈夫だった?」
善法寺君も苦笑いしている。
さっきこの人棚から落ちてきた薬箱に頭打ち付けてた気がするんだけど。
「いつもこうなっちゃうんだよねぇ」
「今日はまだましな方だね」
一年生に至っては慣れたような感じでけらけら笑っている。
「善法寺君。とりあえず、片付けようか」
「そうですね。ちどりさん」
皆で手分けして部屋を片付け始める。
「あ、ちどりさん、そこ気をつけて……」
「えっ?あっわわっ!!」
「危ないっ!」
伏木蔵君が注意したにも関わらず、床に落ちてる湯飲みを踏んで豪快にすっ転ぶ。
そのまま、床に顔をぶつけるかと思ったところを寸前で善法寺君が抱き止めてくれた。
「あ、ありがとう。善法寺君」
「いえ。怪我はありませんか」
「はい……あの」
「はい?」
「この姿勢は少々、恥ずかしいものがあるのですが」
善法寺君の腕が、私の腰回りに抱き着くようになっている。
「うわっ!すっすみません!!」
「おぶっ!!」
善法寺君に急に飛び退かれた為に結局床に顔をぶつけた。
おかしい……私は不運ではない筈なのに。
「わあぁ!!すみません!すみません!すみません!!」
「善法寺君。これ以上、鼻が低くなったらどうしてくれる……」
「はっ、鼻が低くなってもちどりさんは素敵ですからっ!大丈夫です!!」
「あ?うん。それはどうも」
支離滅裂な事をくちばしっている彼を見上げると真っ赤になっている。
昨日といい今日といい良く赤くなるというか純情な人だなぁ。
「いさっくーん!!治療を頼む!!」
突然、七松君がものすごい勢いで扉を開けた。
ちょっ扉が壊れる!!
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