いしゃたま!
□あんた…誰?
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「あれ?もしかして、これちどりさんの字ですか?」
「あ、そうそう。昨日の私の初仕事」
今日は新野先生が出張の為、私が保健室の管理をしている。
善法寺君が心配してくれているのかちょくちょく覗きに来てくれているんだけどね。
昼休み。
二人で時折世間話をしながら、包帯を巻いていた時。
片手間で善法寺君が見ていた治療記録からこの話題が出た。
「……不破雷蔵って、本当に不破雷蔵ですか?」
「どういうこと?」
「本人がそう言ったんですか?一人で来たんですか?」
何故そんなことを聞くんだろう。
「ええ、本人がそう名乗りました。後、竹谷君って子と一緒でしたよ」
「……そうですか、じゃあ、大丈夫ですね。」
「え、何が大丈夫?」
何か間違いがあったんじゃないかと不安になるじゃないか!?
「ああ、すみません。そんな深刻な話じゃないんですよ」
と苦笑しながら善法寺君。
「不破雷蔵と同じ組に鉢屋三郎ってやつがいるんですけどね」
「鉢屋、三郎……」
「鉢屋はいつも不破に変装しているんです」
「へ、変装?不破君の振りをしてるってこと?」
「振りというか、まあ、おんなじ顔姿をしているんですよ。鉢屋は変装名人と呼ばれています。変装だけじゃなく実技も僕ら六年を凌ぐくらいなんですよ」
「へえ、凄いのね」
「ただ、性格に若干、難あり、というか、ちょっと癖がある、というか……」
「はあ、成る程」
善法寺君は言いづらそうに口ごもっている。
ちょっと困ったちゃんなのか?鉢屋君って人は。
「まあ、不破と関わったら必然的に鉢屋とも関わってくると思いますから、ちどりさん、気をつけてくださいね」
「気を付けなくちゃいけないような相手なんですか?」
「うーん、まあ……」
善法寺君はなんとも曖昧な感じに濁した。
この時は只の世間話みたいなものだと思っていたのだ。
その後、鉢屋三郎の曲者っぷりを私は味わうことになるのである。
善法寺君は午後の授業に行き。
私も私で、薬草を干したり、時折来る生徒の治療をしたりして過ごしていた。
「不破君、来ないな……」
経過を見たいから明日も来いと言った筈なんだが。
薬だってできたら塗り替えたいのに。
「いっそ、こっちから行こうかしら」
しかし、保健室を空けるわけにもいかないし……次に来た生徒に伝言を頼もうかしら。
等々、いろいろ逡巡していると、保健室の扉がからりと空いた。
「はい。どうされました……って、不破君」
「失礼します」
「良かった。待ちかねてたんです。足はどうです……?」
私は不破君の左足に目がいった。
包帯をしていない。
普通に足袋を履いて、袴を着けている。
「まさか、包帯を外した?なに考えてるんですか!?まだ痛みはひいて……」
不破君がすたすたと近づいてくる。
「な……い、で」
そして、座った、私と膝を付き合わせるような距離で。
「しょ……?」
不破君の手が私の髪に触れる。
「ふ、不破君?」
「……ちどりさん。僕は、貴女に心を奪われたみたいです」
真剣な顔で、そう切り出してきた。
「……はあ!?」
不破君の顔が近付いてくる。
「……え、あ、ちょっちょっと!?」
ふっと僅かに香る白粉の匂い。
……白粉?
瞬間、確信をした私は目の前にある顔をばしっと両手に挟んでいる。
「……あんた、鉢屋三郎?」
目の前の顔がぴしっと固まる。
「……あ?」
「ていうか、離れてください、不快」
ぐいっと目の前の彼を押し返した。
「は、何で……」
「さぶろおぉぉぉぉぉー!!」
スパーン!!
ゴン!!
彼の言葉を遮るように本物の不破君が保健室に転がり込み、その勢いのまま、彼、鉢屋三郎の頭を殴り付けた。
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