いしゃたま!

□譲れないもの
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「おい、仙蔵。いい加減離せ。」

「おお、すまない。」

 口ではすまないと言いながら悪びれた様子もない級友を潮江文次郎はじっとりとねめつけた。

「これ以上引っ張ったら、出家でもしたかと誤解を生む頭になったかも知れんな」

「……何故、邪魔をした」

 けらけらと笑う立花に潮江は積めよった。

「ふん、「助けてくれて感謝する」の間違いだろう」

「なに?」

「あれ以上続けても、お前が見苦しくなるだけなのはお前自身がよく分かっていただろう」

「……う、」

 歯噛みする潮江の眉間には深く皺が刻まれている。

「しかし、お前のことだ。引っ込みがつかなくなってしまった。そこに級友の私がさっと登場しその場を丸く納めたというわけだ」

「ちっ。余計なことを」

 未だ渋面を崩さぬ潮江を立花はちらりと横目で見る。

「……本当に見苦しいぞ。潮江文次郎」

「なに?」

「言わせてもらうが、あれはただ虫の居所が悪いお前の八つ当たり以外の何者でもない」

「……何だと」

「あの人の言う通り、使えるかそうでないかは働きを見るまでは分からん。額面ばかりを取り、先入観で相手を図るなど忍びのすることではないだろう。お前らしくもない」

「……」

「少なくとも、彼女は賢い……今のお前よりはな」

 さっと背を向けて去っていく立花に潮江は何も言い返すことができなかった。


「くそ」

 小さく一人ごちた潮江の脳裏に、自身の夢を語るちどりのあの迷いのないまっすぐな眼差しが浮かんできた。

「……畜生」

 己が見苦しい?そんなことは痛いほど分かっている。
 
 しかし、

 そんなまっすぐで綺麗なままでいれるものか。



 どろどろした感情を胸に抱きながら、潮江文次郎は鍛練の為に演習場へ向かった。


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