いしゃたま!

□父様の横暴
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「ちどり、お前は明日からここに行きなさい。」

「…はい?」

 とある町の外れに住まう三反田家は草座(そうざ)と呼ばれる薬種を扱う商業集団の一員であり、また、その中でも大名家にも出入りのある由緒ある家柄である。
 その、三反田家の長女、今年、十七歳になる三反田ちどりは、本日の商いが終り家に帰りついた父に、やにわに話がある、と声をかけられたのであった。

 大事な話があると呼ばれて、奥座敷に()した父の前に彼女も座り、いつもとは少し雰囲気の違う父に少し緊張をしていたちどりだったが、その緊張は父の唐突な申し出と差し出された手紙によってふいに崩れた。

 父に渡された手紙の差出人を見て、ちどりは少し目を見開く。

「忍術学園、学園長大川平次渦正…って」

「さよう、数馬が通っている忍術学園の学園長先生からお前宛てにだ」

「数馬……」


 ちどりには五歳も歳の離れた弟の数馬がいる。
 彼は、現在、忍術学園という少々特殊な学校に通っていた。
 全寮制の学校なので、今は彼はこの三反田家にはいない。

 昔から歳の離れた弟を溺愛していたちどりは、少し寂しい思いをしており次の長期休暇を楽しみにしていたところだったのだ。


「それは見れば分かります。数馬の学校の方が私にいったいなんの御用で……?はっ!まさか数馬に何かが!?どうしましょう!事故ですか?病気ですか?まさか虐めですか……!?ああ、数馬が大変な事に!」

「ちどりよ」

「おのれ忍術学園……可愛い私の数馬になんて事を……!」

「ちどり」

「父様、これは由々しき事態です。即刻、数馬を学園より連れ戻しましょう!」

「落ち着きなさい、数馬とは関係ないから。それだったら私のところにまず(ふみ)が来るでしょうが」

「……ああ、それもそうですね」

 幾分疲れた顔の父に開いて見ろと促された文には達筆にこう書かれていた。

《三反田ちどり殿。そなたを忍術学園の保健医教師、新野洋一の助手として勤めること、また新野洋一の元で医者の修行をする事を認める。》


「……は?」

「てなわけだ、おめでとう我が娘」

「ど、どういうこっちゃ!?」

 思わず文を握り潰すちどりであった。

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