理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で
□気紛れアミダと迷子の連行
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「へえ、それで二人仲良く委員会見学ってわけ」
「仲良くではない」
「学園長命令だし。つか、勘ちゃんなにやってんの?」
「え、お手本」
勘ちゃんがこれ見よがしに左手で箸を使い始めた。普通に使えてるし、もうなんなの本当に。
匙で魚を食べるのはどうも格好が着かない。落としたりとかはしないけど。
学園長先生の庵への強制送還&突然の通達から一晩経っての朝食の席。
食堂では示し会わせたみたいに五年生が揃い踏みで当然の様に一塊に座る。本当に仲良い奴等だと思う。私もそこに当然の様に入れてもらえてるのが今更ながらに嬉かった。
暫く使うなと善法寺先輩に言われたので致し方無く左手で箸を使おうとしてる訳だができる筈もない。
ボロボロ落としまくるわ、ハチに心配されるわ、勘ちゃんに赤ん坊かと馬鹿にされるわ、兵助が事あるごとに豆腐を薦めてくるわで朝から葵さんのライフはゴリゴリと削られております。
んで、例の実習の補習内容を皆に話せば勘ちゃんのコメントである。
私は溜め息を吐いて味噌汁を啜った。今度から雑炊とかにしようかな。箸使わなくても良いし。
「雑炊だけでは栄養が偏るぞ、豆腐を食べるんだ」
「勝手に心を読むな。豆腐だけでも偏るでしょうが、日本豆腐協会会長」
「そんな組織があるのか!?」
「ねーよ!!今咄嗟に思い付いたの食い付いてくんな!」
「無いなら作れば良いじゃん兵助」
「勘ちゃん煽らんといて」
しつこい豆腐信者兵助から冷奴を受け取れば漸く静かになった。
然し、それだけでは飽きたらず、然り気無く他の皆の膳にも冷奴を乗せていく兵助。さてはお前作り過ぎたな。
「見学って事はもしかして、葵は所属の委員会を決めるの?」
「まあ、それもあるみたいだよ」
優しい雷蔵君は特にツッコミも文句も言わず、冷奴を食べ始める。
私の膳に勝手に冷奴を追加する隣の馬鹿はもう少し見習うべきだ。
「じゃあ、俺と雷蔵の所は来ないんか。って、ん?」
「彼方のお客様からです」
馬鹿からやって来た冷奴をハチの膳に置けば、えぇ、と困った様な顔をする。
「三郎、お前なあ、それ作ってくれた兵助に失礼だろ?ちゃんと食えよ」
「そーだそーだ」
「うっせ、ハチ。朝は食欲無いんだよ」
「なんだ女子くぁ、ふぉい、ひゃへろ」
「匙しか使えねえやや子も黙ってろ」
私の頬を挟む馬鹿もとい三郎の手を払いのける。顔が変形するわ。
「今回は学級委員長委員会の視察という向きもあるから、全ての委員会を回ることになっている」
払われた手を降りながら三郎がそう言えば、ハチと雷蔵君がそうかと納得した様に頷いた。
「上級生はひとつのクラスから二人同じ委員は出せないんだ」
私の疑問を感じ取ったのか、兵助が説明してくれた。
「ああ、一年は組の子達がそんな事を言ってた気がする」
「火薬委員会なら入れるぞ、人手も足りてないし考えておいてくれ」
「あー、うん……考えてはおくけど」
どうも結果は出来レースな気がすんだよなあ、と、脳内でなははと豪快に笑う某いけどんを思う。
「豆腐も着けてやるから」
どっから出したその冷奴。
「いや、もういらない。作りすぎたからって折に触れて食わせようとすんな」
「はは、バレたか」
「イケメンスマイルで誤魔化すな」
結局、五年生一同で、朝から割りと大きな冷奴を各々二個ずつも食べる羽目になったのだった。
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