理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□聖徳太子にゃなれませんよ
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「ああ、葵ちゃん良いところに。」

 ……はい?

 ちゃん付け……だと?

 利吉さん襲来事変の翌日の放課後の事。私を廊下で呼び止めた人物を思わずマジマジと見返してしまった。

「な、何か御用でしょうか、山田先生……」

 貴方昨日は『葵君』だったでしょう。先生の顔でそう呼んでたでしょう。

「悪いね急に呼び止めて。葵ちゃんは今忙しいかい?」

「あ、いえ、別に」

 止めてください!

 その『未来の嫁に対するお義父様の顔』みたいなあったかスマイルを今すぐ止めてください!!

 と、目の前の優しい笑顔に掴みかかりたくなる衝動を全身全霊で押さえながら返す笑みは多分かなりひきつっている。

「そうか、悪いんだがこのプリントを一年は組の教室へ届けてくれないか」

「え、もう放課後ですよ?」

 プリントの束を山田先生から受け取れば盛大な溜め息を吐かれた。

「補習授業でな。今日も」

「ああ、なるほど……」

 お疲れ様です、本当に。

「私は此れから厚木先生と日向先生と合同授業の打ち合わせでな。持っていって貰えると助かる」

「勿論。御安い御用です」

「有り難う葵ちゃん」

「いえいえ……それと、呼び方は藤山で構いませんよ」

 やんわりとそう言ってみたら山田先生は目を瞬かせた後、ははは、と爽やかながら渋さのあるダンディな笑いを溢された。

「何を言ってる、私と葵ちゃんの仲では無いか」

 ……どんな仲だ!どんな仲なんだよ!!

「あ、それはどーもです。では、早速持っていきますね!!」

 このままだと、お義父様呼びも強要されかねないと思った私は足早にその場を後にすることにした。

 いち早く誤解を解きたいが一時撤退。

 今度利吉さんが来た時に利吉さんから誤解を解いて貰おうか。いや、あの男が素直に応じるとは到底思えん。竜爺の件と良い、外堀を埋めるやり方は質が悪い。おいこら脳内で笑うな。

 想像上でも嫌味なくらいにイケメンなスマイルを浮かべている利吉さんにとてつもなくげんなりするのだった。


 げんなりしながらも気を取り直して、一年は組の教室を目指して歩く。
 さっきの山田先生とのやり取りでかなりライフをごりごり削られた感があるけれど、下級生と関わるのは編入してから初めてなので正直楽しみだ。

 ……三郎も良く一年は組の話や委員会の後輩の話をしていたよな。

 ふとそんな事が頭に浮かぶ。

 ハチに言われて、あれから三郎ときちんと話をしようと思っている訳だが、改めて考えたら何を言ったら良いのか分からないままなのだった。

 何より、三郎の機嫌の悪さの原因が良く分からないものだから、結局、昨日から変に避けてしまっている。
 駄目だとは思っているけど、でも、三郎も三郎だとは思うのだ。相変わらず妙に機嫌が悪いから話し掛けづらいんだよ。

 全く色々とどうなることやら。

 そんな事を考えていたらは組の教室の前に着いた。
 部屋の中からは賑やかな、賑やかすぎるくらい元気な話し声が聞こえる。うーん、楽しそうだ。

「やあ、失礼。補習授業のプリントを持ってきたよ」

 教室の戸を開けて、部屋の中に一歩踏み込んだ。

「「「……………………」」」

「ん?」

 ちょっ、なんでいきなり沈黙する。

 ばっと一斉に此方へ向けられる顔に思わず軽くびくりとなった。
 十一人の円らな瞳。怖いよ君達。






「え、ちょ、」

「「「うわ、へ、なめ、なに、り、ど、はじ、あ、て、ちはー!!!」」」

「のわああああ!?」




 ひいぃぃ!!
 一斉に喋りながら押し寄せてきやがった!何言ってんの君達!?

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