理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□噂の編入生の噂がマジでヤバイ件
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 畿内の何処かしらの山奥にひっそりと、しかし広大に存在する山寺の様な施設の、その山門を潜れば其処は忍の学舎。

 門前に掲げられるその名は「忍術学園」。

 その筋の者達にとっては有名で、時と場合に依れば何かと厄介な一勢力である。


 そんな学園の一角、授業の業間の合間にと談笑に沸く浅黄色に井桁模様の忍装束の子ども達。

 一年は組、十一人の専らの話題は最近やって来た編入生についてである。


「え!じゃあ、その竜王丸さんの娘弟子の藤山葵さんは五年生に編入したの!?」

「女の人ならくのいち教室なんじゃないの!?」

「年齢からいって後一年か二年だけの在籍になるだろうから、本格的な忍術を学ぶ為らしいよ。今年のくのたま上級生は凄く数が少ないらしいし」

「あ、じゃあ、この噂は……?」

「何の噂?」








「……五年ろ組の鉢屋三郎先輩が藤山葵さんに抱き着いていた、とか?」

「「「何それ!!?」」」

 十人の子どもの視線が噂を語る一人、一年は組の学級委員長、黒木庄左ヱ門に集中する。

「どういうことなの、庄ちゃん!?」

「誰からの情報なの!?」

「尾浜先輩が見たんだって、で、尾浜先輩の見解としては二人は恋仲かなんかじゃないかって、」

「嘘お!!?」

「でも、その後、藤山葵さんの師匠である竜王丸さんが鉢屋先輩を思いっきりぶん殴ったらしい」

「え!?」

「儂の娘にいきなり何をするんじゃああ!!……って、」

「あ、その怒鳴り声だったら僕も聞いたかもお」

「はにゃあ、僕もだよお。ナメさんも驚いてたもん」

「なるほど、分かったぞ……!」

「何が分かったの、きりちゃん?」

 合点がいったと手を叩くのは、他の子ども達より多少耳年増な所がある少年、摂津きり丸だ。

「葵さんと鉢屋先輩は、親に反対されている恋仲なんだ!!」

「「「おおー!!」」」

 きり丸の断言に皆納得したと頷く。

「……それにしても、」

 そして頷いていた首は、一斉にきょとんと傾く。

「藤山葵さんって、」

「何でかなあ?」

「会ったことのある人な気がするよねえ」

 十一人はうーんと首を捻っている。

 やがてその中から一人、皆本金吾が立ち上がる。

「僕、葵さんにすっごく会いたい!」

「僕も!」

「僕もだよ」

「俺も」

「私も!!」

「「「じゃあ、放課後、皆で会いに」」」

「一年は組!お前達は放課後は補習授業だ!!!」

「「「だああっ!!!」」」


 一年は組、教科担当教師の土井半助は、一斉に転げる教え子十一名に対してキリキリと痛みだす胃の腑を、溜め息を吐きながら擦るのであった。






 さて、忍術学園には幾つかの「お約束」が存在する。

 その内の一つが、

『一年は組が出どころの噂は、明日の朝日を待たずして学園中に広まる』

 である。


「という訳で、再会早々悪いが、一発殴らせろや三郎」


 私、五年ろ組の編入生、藤山葵の受難は始まったばかりである。



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