理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□神様とサイコロ
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 なんか煩い、


 もう朝か、

 学校、学校行かなきゃ、

 えっと、


 あれ、学校って、違うか、検査があるから、

 入院になるのやだな、


 ん、これも違う……?




 この声は、父ちゃんじゃない、私を呼んでんのは誰?









「……これ、葵。そんなところで寝ておっては風邪を引く」

 私の顔を覗き込んでいるお爺さん。

「……誰?」

「何を寝ぼけとるんじゃ」

「…あー、」

 はいはい。えっと、竜爺だ。
 んで、此処は忍たまの世界だ。
 一瞬、自分がどの世界にいんのか混乱していた。

 頭が重い。
 眉間を擦りながら私は、もたれていた切り株から身体を起こす。

「背中痛い……」

「当たり前じゃろうが」

 竜爺が呆れた顔をしている。
 なんか最近、怠いっつーか眠いっつーか……なんとなく原因は分かってんだけど。



「葵や、お前にお客様ですよ」

 少しぼけっとしてたら、家の方から婆ちゃんがやって来た。

「……おう」

 私を訪ねてくるお客と言えば、一人しかいない。
 婆ちゃんの妙に楽しげな顔とそれに対しての竜爺のにやりとした笑いが全てを物語っている。

 少々げんなりしながら家に戻れば、案の定、土間の叩きに、にこやかなイケメンが座っている。


「やあ、葵」

「……フリーの忍者って暇なんですね」

「酷いなあ。忙しい合間を縫って、君会いたさにやって来たのに」

 ぺらぺらと、またこいつは……イケメンの自覚の有るイケメンはマジで質が悪い。


 現在はそこそこに売れっ子なフリーの忍者、山田利吉さんと出会って、もう半年以上になる。

 78回目のカエンタケ忍者襲来時に行き逢った彼が私を見たときの妙な反応から、私は彼との接触を試みる事に決めたのだった。大きな賭けだったと思う。

 今のところ私は消えていないので間違ってはいないのだろう。


「おお、利吉君」

「こんにちは、竜王丸さん。葵さんと少し出掛けてきても宜しいでしょうか」

「そりゃあ、もちろん!遅くなっても構わんぞ」

 止めてくれ、竜爺。

「晩までには戻りますので」

「じゃあ、良かったら夕餉を食べていっとくれ。大したもんは出せないが」

「ありがとうございます。じゃあ、行こうか葵」

「……うす」

 満面の笑みの竜爺と婆ちゃんに見送られながら、私は利吉さんに着いていく。








「なんだ、この親公認的な感じ」

「公認だろ」

「笑えない冗談は止めてください」

「祝言は何時にしようか」

「止めろつったろ」

 隣を歩く利吉さんのわっるい笑顔に頭が痛くなる。




 初めて会った時、私は彼にカエンタケ忍者達の動きを見張る事を依頼した。
 動きがあったら報告して欲しいとは言ったが、動きが無くてもなんかこの人は私に会いに来る。

 五回に三回くらいは単に会いに来ただけというパターンなのだが、来た直ぐはどちらなのかの判別が出来ないのが面倒この上ない。

 加えて、この依頼は竜爺と婆ちゃんに秘密にする様に頼んでいる。
 前回ちょっと着いて行くのを渋ったらバラされそうになって焦った焦った。

 という訳で、私はこの人に逆らえない。







 っておいおい。なんで依頼主の私がこいつに主導権握られてんだ。

 出会った頃はもうちょっとしおらしいというか分別のある人に見えていたのに、アニメで見ていた時は爽やかで格好良い人だったのに……なんだこの無駄にイケメンなエスっ気強目男は。



「難しい顔して、歪んでしまうよ」

「う、むう」

 利吉さんの手が伸びてきて、眉間に出来た皺をぐいっと親指で伸ばされる。

「触らないで下さい」

 それを払おうとして割と全力で振った私の手は難なく受け止められてしまう。

 くっそ、エリートめ。


「傷つくなあ」

 なんて事を言いながらけろっとした笑顔でそのまま私の手を握る。
 この人、本当に人の話聞かない。

「まあ、今日は特に何かあったわけじゃないけどね。町に新しい甘味屋が出来たのは知ってる?」

「知りません」

 今日は只、会いに来たパターンか。

 最高にげんなりしている私を気にする風でもなく、利吉さんは上機嫌に私の手を握ったまま歩き出すのだった。


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