理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で
□西門にて、そして、答え
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カエンタケ城忍者隊の忍達は、現在、混乱の最中にいた。
自分達の首領が連れ帰ったあの少女、逢坂さくらの能力を持ってすれば、どの様な難攻不落の城であれ傾ける事ができる。
彼等はそう確信し、そしてあの忍術学園ですら占拠することができた。もう己れらに恐ろしいものなどない。
しかし、どうしたことか。
まず、最初の異変は西門付近で起きた。
門を軽々と飛び越えて見張り役に襲いかかったのは闇のような逞しい体躯に鋭い爪と牙。
叫声を禁じ得なかった見張り役はしかし、あっさり解放される。
だが、眼前に迫った獣の殺気は彼等の士気を削ぐのに充分過ぎる程であった。
そして、そのまま、黒い毛色の大きな狼に続くように、五匹の狼達が飛び込んでくる。
統率された無駄のない動き。寸前まで襲えども、けして留目の歯牙は出さず戦意のみを奪い取って去っていく。
これは只の野生ではなく、指揮を取る者がいる。
それに気付いたカエンタケ忍者数名はその頭を探そうと混乱の中に視線を巡らせた。
彼等に後少しの冷静さがあれば、塀の上を駆け回る、獣の様な影に直ぐに気付いたであろう。
廻れ、廻れ、鐘楼から正門へ
五年ろ組の竹谷八左ヱ門は、口に挟んだ笛から鋭い音を出し続ける。
それは、人間の鼓膜を揺らす事はしないが、六匹の狼達の鋭敏な獣の耳には、己れらの育ての親であり群の一番頭からの指示として届く。
「おっと!」
やおら飛んで来た飛び道具を竹谷は寸前で避ける。
気付かれた。
彼は笛を喰わえなおし、退避の指示を飛ばす。
頭を取らんと彼の足下目掛けて迫ってくる鍵縄を弾き飛ばし、塀を飛び越える狼達と入れ替わりに、その縄の遣り手の肩に向かって武器を振り落とす。
三本の分銅鎖が繋がれたそれは、骨の髄まで容赦無く打ち砕くその威力から、即ち、微塵と呼ばれていた。
激痛に悶えながら、一人が地に倒れ伏すのを見て、カエンタケ忍者達は怯む。
「来い」
闇夜の内で構え直すその姿は、さながら獣が如し。
さて、忍術学園にはもう一匹、獣が、野獣がいる。
竹谷を囲む忍達が一人の背後から鍛え上げられた腕が突如伸ばされ、そのまま、締め上げられた。
落とされたそれが地に倒れるか倒れぬかの内に、何が起きたのか理解できない周りの忍達が次々とその松葉色の影が放つ豪腕により宙に弾き飛ばされる。
そして、その豪腕程ではないが、強かで、克つしなやかな一撃を放つ瑠璃色の影。
「雷蔵っ!」
「ハチ。遠慮はしなくて良いからね」
そう言って笑顔で、普段の彼を思えば信じられぬ程の迷いの無い手付きで忍達を地に叩きつける五年ろ組、不破雷蔵。
「さあ、行け!一年は組!!!」
全身を泥で汚した、六年ろ組、七松小平太が発した声に、次々と地面から涌き出るように、浅葱色の子供達が飛び出した。
「こっちだ!!カエンタケ忍者!」
「ここまでおいでっ!!」
「ほらほら捕まえてみやがれ!」
カエンタケ忍者達を挑発しながら四方八方に走り回る彼等に、竹谷は面食らい、七松に向かって叫ぶ。
「七松先輩!よい子達に何させてるんです!危険ですよ!!!」
「まあ、見とけ」
挑発に乗った忍達が、眼前の浅葱色を捕まえんとした寸前である。
「やーい!引っ掛かったな!!」
「油断大敵火がボーボーだ!!!」
「……へ?」
あちこちで、忍達が罠や落とし穴の餌食になっていく様を、竹谷は呆けた表情で見る。
「竹谷先輩!!」
「三治郎、虎若。これはいったいどういう状況なんだ」
駆け寄って来た委員会の後輩達に問えば、二人はにやっと顔を見合わせる。
「四年い組の綾部喜八郎先輩が仕掛けた罠の位置を三年は組の浦風藤内先輩と兵太夫が聞いていたんです!」
「其処へ僕達が誘導する!これが一年は組の作戦です!!!」
「綾部が?」
「はい。合同バトルロワイヤルサバイバルオリエンテーリングの開催前に設置されていたそうですよ」
気が付けば辺りにはカエンタケ忍者の姿はない。
皆罠や落とし穴に掛かったか、何処かしらへ逃げたか。
「西門を奪還した!!これより裏門の援護に向かう!!!」
「「「おーっ!!!」」」
七松の怒声に一年は組の子供達は拳を元気良く突き上げる。
「しんがりは私が務める。竹谷!不破!!先導しろ!!!」
「はっ、はい!!」
瑠璃紺、浅葱、松葉が一つの巨大で強かな生き物のように固まりながら、裏門に向かって駆けていった。
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