理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で
□これで問題ナッシング
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「随分と消耗しておる様じゃな」
忍術学園の片隅の小さな庵にて、学園長、大川平渦正は、目の端に見える少女に、そう声をかけた。
部屋の隅にしゃがみこみ、顔を伏せていた少女、逢坂さくらはその異様なまでに整った顔をぱっと上げる。
にっこりと大輪の花の様な笑みを浮かべるその顔色は、蒼白で、目元にはうっすらと隈が渡っている。
それはしかしながら少女の美しさを損なうことはなく、寧ろ、得体の知れない凄みに色を変えていた。
「余計な事を喋らないで」
少女の僅かにひび割れた口唇から出たその言葉に呼応するかの様に、老躯の首もとを、白刃が揺れる。
自身の側に立つ忍二人を、老翁は焦る様子も恐れる様子もなくきろりと見やり、その目を再び逢坂さくらに注ぐ。
逢坂さくらはゆっくりと立ち上がり、ふらつく足に力を込めながら老躯を酷く冷めた目で見返す。
「人心を操り、野武士を遣い、カエンタケの忍をこの学園にかように易々と進入させ……果ては占拠させるとは、まっこと、見事な能力じゃの」
訥々と語る学舎の長に、二人の忍は白刃を構え直す。が、逢坂さくらの口唇が、止めなさい、と音もなく動くのが、老翁の視界に映った。
「……しかし、その能力は…………おぬし自身の、命を削っておるのではないか」
その問いには逢坂さくらは答えず、ただ、蒼白な面相が再び、花の笑顔をふわりと浮かべただけである。
「何故、カエンタケと手を組んでおるか、我々学園に如何様な恨みがあるかは知らぬが……止めるのじゃ逢坂君。今ならおぬしは引き返せる」
逢坂さくらはゆるゆると目を見開き、暫時、弾けたように神経質な笑い声を立てる。
「……馬鹿ですね。ご自身の状況を考えて物を言って下さい…………今更、私は何処へ、どう引き返せと言うんですか?」
肩で喘ぐように息をしているのは、笑いの為か、それとも、
「あの方は……実方様は、私を、私の力を必要として下さっている。私はこの世界にいるべき存在なんです」
はー、はー、と息を漏らしながら口許は笑いに歪め、逢坂さくらは老躯へと歩みより、見下ろす。
「言っておきますが、私はあなた方に恨みなんてないですよ。ねえ、知ってます?鶏を同じ檻に沢山入れると弱い奴は他の鶏に追われてつつかれて死んじゃうんですよ弱肉強食というでしょう?私はつつかれて死ぬなんて嫌なんですよだから弱いあなた方には死んでもらわねばならないんです分かりますか?」
そう一息に捲し立てる逢坂さくらを学舎の長たる大老はじっと見上げる。
その表情は何処か痛ましい物を含んでいた。
「その目で私を見るな」
氷の様な冷たさを孕ながら吐き捨てる様な言葉。
それが吐かれたと同時に、彼方から、微かな破壊音と怒声が聞こえ出した。
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