理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で
□だから展開が怒濤過ぎるって
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それは、昨日の昼下りの事である。
五年い組の尾浜勘右衛門は、正門の近くを通り掛かった時に、ふ、と足を止めた。
そこには逢坂さくらが、一人で、掃き掃除をしている。
何時もの取り巻きはいない。
殆どが、裏々々々山に出払っているからだ。
そして、いずれ、その取り巻き達は正気に戻ることになっている。
その為に、今、委員会の己の片割れと、最後の砦たる少女は、正気を取り戻した仲間達と共闘している筈だ。
学園に残った尾浜の役割は、学園の守護と、逢坂の見張り役である。
彼女は、自身の周囲の変化に、気づいているのかいないのか。
ただ、たった一人で、箒をゆったりと動かす後姿は、小さく、酷く頼りなく見えた。
ざりざりと地面を箒の端が掻く音が耳に媚り着く様な錯覚を覚え、尾浜は踵を返してその場を後にしようとする。
その時、からん、と、極軽い音が尾浜の鼓膜を揺らし、反射的に振り返る。
その目に映ったのは地に転がる箒と、空中を見上げる逢坂の後ろ姿。
彼がそれを怪訝に思う、それと同時に、逢坂が此方を振り返り、
鮮やかな、笑みを浮かべた。
次の瞬間、競り上がるような悪寒と、恐怖に近い感情に尾浜は小さく呻いてよろめく。
そんな彼に、複数の影が襲い掛かってきた。
「野武士の集団……?」
「異常な数だった。それに、」
尾浜君はそっと自分の腕を擦る。
「何度、切り捨てても、攻撃しても、まるで、痛みなんか感じて無い、みたい、に……」
腕に添えられた指の先が震えている。
逢坂さんが……
「藤山っ!?」
私はだっと、木に飛び上がり、枝を伝いながら上へ上へと登っていく。位置的には学園が少し見れる筈だ。
「…………っ!」
私は肌が粟立つ感覚に、よろけないよう足を踏ん張りながら、木々の向こうに微かに見える学園をぐっと睨んだ。
がっと、枝を蹴り、皆の真ん中に降り立つ。
「……学園全体が、霞に覆われていた」
「…………くそっ!おい、勘右衛門!学園の皆は無事なのか!?」
三郎が舌打ちをしながら尾浜君に問い詰めれば、尾浜君は頷く。
「一人を除いて、なんとか生徒も先生方も全員脱出できたよ。行こう。今は此処から近い廃寺を拠点にしているから」
「……一人、とは」
中在家先輩が問う。
踵を返した尾浜君は此方を振り返らない。ぎゅっと、拳を握り締めている。
「学園長先生が、残っておられます」
尾浜君の背中から、絞り出すような声が、私の耳に刺さった。
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