理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□トントン拍子にはいかないこともある
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「……くっ、はあ、」

 私は肩で息をしながら、口許をばっと押さえる。

 遥か下方の地面に見える蠢く影。息を潜めろ自分。見つかる。

(……どうして、こうなった)

 震える唇でそう音もなく囁いた。












「三郎っ!滝夜叉丸!!」

 久々知君に連れられて来た小さな崖から見下ろした光景に、私は叫び声を上げた。

 なんっでお前ら、狼に囲まれてんだよ!?

「雷蔵っ!!藤山っ!来るなっ!!!」

 三郎が私達を見上げて怒鳴る。

「ハチっ!止めるんだ!!!」

 久々知君が叫ぶ先にいるボサボサ髪の少年の生気の無い目と私の目がかち合う。
 あ、嫌な予感。
 すっと、竹谷少年、口許に何かを食わえて、鋭く吹く。

「い、犬笛」

 その瞬間、三郎&滝夜叉丸を囲んでいた狼が一斉に崖を駆け登り始めた。

「ちょっ、まてよおおお!!!」

 狼ってそんなんできるの!?
 つか、竹谷少年イズ狼遣い!?なんつーハイスペックだよ!!何処のもののけ姫!?ムツゴロウ!?天才志村動物園んんんん!!!?

「逃げろっ!!」

 誰の叫びかも分からない、皆、一斉に散々に逃げる。
 目の端で二匹の狼が崖下を迂回する様に走るのが見えた。囲い混むつもりだ、と瞬時思った私は、私の手を握って走る喜八郎の腕を振り払う。

「葵っ!!!」

「喜八郎。先に逃げな。右方向お奨め」

「駄目だ!葵!!」

 喜八郎の制止を無視して来た道を戻る。



「うぉっほい!!」

 いたいたいた狼が四体現れた!!!

「っ、こっちだ!!来い!!!」

 踵を返して逃げ出せば、狼は唸り声を上げながら追い掛けてくる。ヤベエエエエ!!こええええ!!!!
 迂回していた二匹も加わったのを確認した私は、一気に加速を着ける。

「嘗めんなよっ!!」

 こちとらあの暴君野獣七松パイセンとのガチ鬼ごっこ生き抜いてんだ!!!

 ざっと、横っ飛びに茂みに飛び込む。
 そして、間髪入れずに近くの木に飛び付いて、枝に取り着く。
 下方の地面では、狼六匹が彼方へ走っていくのが見えた。

「……ふっ、ざまあ」

 とかいいつつ冷や汗やべえ。
 ガクブルだわこんにゃろー。

 ぶら下がった状態の身体を枝の上に引き上げる。もう少し上に登れそうだ。

「よっ、と」

 上の枝、さらに上の枝と、飛び移って、そこに腰掛けた。

「……くっ、はあ、」

 流石にちょっとキツイ、息が上がってる。
 肩で息をしていた私は、下方から聞こえる唸り声にばっと手で口を押さえる。

 下を見れば、蠢く影。

(……どうして、こうなった)

 震える唇で、息だけで独り囁く。

 お、狼って賢いんだな……。

 私がいる木の下をぐるぐるうろうろしている。
 息を潜めろ、見つかる。ぎゅっと口許を押さえる。胸がドキドキした。

 でも、このままだと狼マスター竹谷君自体に見つかるのも時間の問題だ。


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