理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で
□一寸先はなんとやら
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「葵ー」
「………………」
「おーい」
「………………」
「あっ!あれは何だ!!?」
「………………」
「馬鹿が見るーって、引っ掛かってないや。馬鹿じゃなかった」
「………………」
だんまりを決め込んでいる今の私の心情を一言で現そう。
どうしてこうなった。
「なにむすーっとしてんの?」
私の顔を不思議そうに覗きこむのは喜八郎。
彼は今回の「合同・バトルロワイアル・サバイバル・オリエンテーリングin 裏々々々山」での私のペアだ。
爺ちゃんの学園長命令により始まったイベント。
二人一組でペアを組み、各組に渡された木札と書簡を奪い合いながらゴールを目指すといったもの。
なお、ゴールの場所は言い渡されておらず、各自が持っている、また他のペアから奪った書簡と、各ポイントに隠されているヒントを読み解いて辿り着かねばならない。
木札、書簡、両方を奪われた時点で脱落。
最終的にゴールに辿り着くまでの時間と、奪い取った木札の数を総合して優勝ペアが決められる。
ペアは同学年、異学年を問わないが、後者の場合、学年差が点数として加算される。
期間は三日間。
武器の使用は制限なし。
三日間の内にゴールしたペアが現れなかったら、残った者達の中で木札の所持数の多いものを勝者とする。
以上がルール。
爺ちゃんは年末特番の企画者にでもなれんじゃないか。
「重要度が高いのは木札の方とも言えるんだけど、とりあえず三つは集めた訳だし、書簡が欲しいなあ」
喜八郎が間延びした声でそう言いながら、私が首から下げている木札を見た。
現在、私と喜八郎は初日の夜を迎えている。
後方は崖、多少開けた場所。喜八郎が言うには迎え撃ちやすい場所。
「喜八郎、もうそれぐらいにしな」
「うーん。後一つ」
ざくざくと土を掘る音と共に聞こえる声。
喜八郎はさっきからあちこちに罠やら落とし穴を休みなしに作っている。
この三つの木札も、喜八郎トラップにより手に入れたものだ。
今回の、この合同なんちゃらは表向きには爺ちゃんの思い付き。
裏の作戦は、逢坂さんの取り巻きを全て正気に戻すところにある。
「うん。嫌な匂いが全くない。調子が良い」
喜八郎は無表情ながら機嫌が良さそうに呟いた。
ここは学園から遠く離れた山奥。
逢坂さんの能力には範囲制限があるのではという三郎の仮説は当たった。
つまり、今は彼等の霞を晴らしやすい。
三郎が言った作戦は、逢坂さんの取り巻きである上級生達と、正気を保っている生徒達の直接対決。
学園長から言い渡された試合ともなれば、こそこそと私に攻撃する必要もなく合的に痛め付けることができる。
それに誘き寄せられたものを迎え撃つ。
結局、生徒間の戦いは起こってしまった。
私は爺ちゃんに作戦変更を物申したが、「もう決めた」の一点張り。
人の話を聞かない年寄りは嫌われるって知らんのか。
「よーし。おーわりっ」
漸く罠の仕掛けを終えた喜八郎が私の隣に腰を下ろす。
「葵はなんでそんなに機嫌が悪いんだろう?」
首を傾げている彼を、私は横目でじとりと見た。
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