理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□女は怖いというのはこの世の常
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「初めまして、くのいち教室のトモミと申します」

 そういって、彼女は私の部屋の入り口で静々と頭を下げた。
 髪の毛さらっさらや。尾浜君よ、こんな美少女と知り合いとか、隅におけないというか、リア充感ぱねえわ。

「あ、此方こそ。五年ろ組の編入生。藤山葵です」

 トモミちゃんは、にこっと微笑んで、部屋に足を踏み入れた、と思えば。

「あっ!」

「ふぉっ!?」

 足を滑らせでもしたのか、此方に倒れ込んできた。
 まさかどじっ娘属性なんかスペック高いな。受け止めた私もバランスを崩し、押し倒される形で、床に転げる。

 あわわわわわ!密着度やべえ。これって所謂ラッキースケベって奴か!?

「すっ、すんません!!」

 思わず謝る。
 うわっトモミちゃん睫毛長い肌白いってか近い近い、

「ぅえっ!?」

 トモミちゃんが私を押し倒した状態で何故か懐に手を差し込んできた。

「あ、あのっ。ちょおっ!!?」

 まさかの此処で百合展開なのか!!?
 いや、まてまてまて、心の準備的なものが、じゃなくておいこら、そこの少年、見てないで助けろや!!!!

「尾浜!助けろ!!!」

「……っ!とっトモミさん、止めて差し上げてくだされっ!!!」

 尾浜君がはっと我に返った様にトモミちゃんの肩に手をかける。
 テンパってらっしゃるのか口調が変だ。

「いっ!?」

 トモミちゃんは華麗にスルーして私の肌を直接触る。
 胸をひんやりした手が滑っていった。目の前にあるトモミちゃんの目が僅かに見開いた。


「……あら、まあ。本当に、女性でしたか」

 そう呟いたトモミちゃんはすっと私から離れ、頭を下げた。

「は……?」

「失礼致しました」

 にこりと綺麗な笑みを浮かべて正座をしたトモミちゃんは、呆然としている私に対しぱっと口を開いた。

「食満留三郎先輩と闘われている姿を見た時に違和感を覚えたんです」

「……い、違和感?」

「はい。あの足技。股関節の稼働域が、男性にしては広いな、と」

「はい?」

 その着眼点はなんだ。
 どっかのバーロー並みの観察力じゃねえかよ。

「私、僭越ながら武道を嗜んでおりますので、それで思ったのです。あなたは女性ではないか、と」

「え、えーと。それで、胸に手を入れた、と?」

「はい。驚かせてしまい申し訳ありません」

「…………おう」

 さらっと言ってんじゃないわよ!!

 美人だけど、私より年下っぽいけど、無駄に場数踏んでいる様な雰囲気というか、人生二回目かってレベルの落ち着きとか、なんか色々とぶっ飛んでらっしゃるお方だ。

「山本シナ先生にも伺ったのですが、自分の目で確かめるようにと仰られまして」

「はあ」

 シナ先生……貴女の教育方針で私は危うく百合展開でしたよ。



「……信じなさいと言われて信じるよりも、自分の目で確かめ、信じるか信じないかを決めなさい、と私は言ったのですけど、トモミさん、少々やり方が強引でしたね」

 戸をからりと開けて御本人様の登場。
 本日はお婆ちゃんのお姿です。

「私からも謝ります。葵さん、尾浜君、驚かせてしまってごめんなさいね」

「はあ、いえ……」

「さて、トモミさん。どうでしたか?」

「ええ、そうですね」

 トモミちゃんは私の方に目を向けた。
 そうして、ふっと微笑みを浮かべる。
 それは最初に見た、にっこり笑顔よりも随分と気の抜けたような柔かなものだった。

「葵さん。貴女が、私達をきっと助けてくれる。私はそう信じます」




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