理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□悪い事態
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 翌日の朝。
 私は服を着替えてゆうちゃんノートを片手に部屋を出た。幸いに今日は休講日。時間はたっぷりある。

 ノートをぱらぱらと捲る。


「綾部喜八郎。牡牛座のAB型、作法委員会所属。天才トラパー、極端なマイペースで不思議ちゃん。推しカプは仙綾仙、綾タカ、綾滝……いや、カプはどうでもいいか。でも割りと攻め傾向なんか、てか、綾タカって……」

 ぶつくさノートの内容を呟きながら確認して、私はそれを懐に入れる。

 取り合えず、ゆうちゃんの予言通りに穴を全部調べてみようと思ったのだ。
 綾鷹だかおーいお茶だか知らんが待っていやがれ綾部喜八郎!!

 先ずは腹拵えと廊下を歩き出す私は次の瞬間、ほぼ無意識の内に廊下を飛びず去った。

 カカカカカッ

 とリズミカルな音を立てながら、廊下の床と壁に手裏剣が刺さる。
 うわデジャブってか誰だよあぶねーな!!!

 ばっと飛んで来た方向を見れば、冷たい目をした美人と、隈がすっごいヤバイ感じのおっさんみたいな奴が見下ろしている。


「ふむ。動きは悪くないな」

「な、なんか用っすか」

「調子には乗るなよ。直ぐに貴様の化けの皮を剥がしてやるからな。藤山葵。」

「は?何の話っすか?」

「行くぞ文次郎。」


 おいおい。この学園の奴等はどいつもこいつも人の話を聞かない奴等ばっかりだな!

 私のクエスチョンをガン無視して二人は飛び去っていきましたよ。
 制服の色は緑色、六年生か、

「おーい!藤山!!」

「尾浜君、」

 廊下の向こう側から血相を変えた尾浜君が走ってきた。

「不味い事態になったぞ」

「何が……?」

 物凄い嫌な予感を抱えながら尾浜君に尋ねればとんでもないことを言い出した。



「逢坂さくらに魅入られた上級生達が、藤山を追い出そうとし始めているんだ!」


「どうしてそうなった!?」




 尾浜君に連れられて、学園長の爺ちゃんの庵に行けば、そこには中在家先輩、七松先輩、食満先輩もいて、皆、難しい顔をして座っていた。

「ふむ。葵。ちと不味い事になった」

「尾浜君から聞きました。いったいどういうことでしょうか」

「俺達は葵にたぶらかされてるんだそうだ」

「は?」

「……と、上級生達が騒いで、いる」

「へ?」

「俺を倒しかけたお前をそのままにしておくのは学園の沽券に関わるとも言っている」

「…………マジかぁ」

 私は頭を抱えてしまった。
 これは、爽健美茶とか言ってる場合ではない。


「逢坂さんの差し金ですね」

「うむ。恐らくは……」

「あいつらめ、本当に目が節穴にでもなったのか!」

 七松先輩が肩を怒らせている。

「……藤山、君の事は、我々が守る」

 中在家先輩が私を見ながら言った。


 でも……私は首を横に振る。

「有り難うございます、先輩方。しかし、手助けは入りません」

「何故だ藤山。俺達に遠慮なんて、」

 食満先輩と尾浜君も戸惑った顔をした。

「……僕は、皆を対立させる訳にはいかないと思います。彼等が逢坂さんに操られているならば直の事、関係に傷が入るのではないでしょうか」

 爺ちゃんは腕を組み、うーんと唸る。

「葵よ……。お主の言うことは最もだ。……じゃが、一人は危険じゃぞ」

「はい、勿論。死にかけた場合は最低限助けて頂きたいです。でも、それ以外では、傍観していてください。そして、何かあった時は、どうか、迷わず……彼等の方を優先してください」

 関わるな。とも取れる言葉だ。
 少々冷たくて、心配してくれている皆には失礼なのかもしれない。
 部屋の皆が息を飲むのが分かる。


 でも、恐らく、彼女は私に狙いを絞り出したのだ。

 それも、自分の手は汚さない方法で。

 彼女が「彼女」だとしても、許せる行為じゃない。ならば、それに乗ってやる事だってない。


「……あい、分かった。皆の者。葵に任せるのじゃ」

「学園長先生!!?」

「また、あやつらがいつ襲ってくるかは分からん。お前達は暫く、葵との接触を控えるように。これで良いのだな、葵」

「はい。できたら下級生も、僕にはあまり近付けないようにして下さると助かります」

 完全に私を孤立させる事にはなるが、向こうが何をしてくるか分からないから仕方ない。内心ガクブルだけどな。

「葵。しかし、何かあったら直ぐに我々に助けは求めるのじゃ」

「あまり無茶はするなよ。藤山が倒れたら、元も子もないって事は忘れちゃ駄目だからな」

 尾浜君が言い聞かせるように私に言う。
 私もしっかり皆に見えるように頷いた。



 皆は、心配そうな顔をしながら先に庵を後にした。


「では、私も」

「うむ、葵よ」

 立ち上がろうとしたら爺ちゃんに呼び止められる。

「まっこと、無理はするでないぞ」

「はい、分かっています」

 苦笑で答える。
 ここの人達は私に優しすぎる。

「自己犠牲の心を咎めはせん。だが、忍とは、生き抜く事にこそ意味があるのじゃ」

「爺ちゃんは大袈裟ですよ。私は、皆を助けると決めたんですから」

「まことか」

「はい。私が、そうしたいと決めたんです」

 そう言って爺ちゃんの庵を私も後にしたが、






ガッカカカカカ!!


「どひいぃぃ!!?」


 ちょっ、襲われんの早くね!?
 格好良く決めたのが台無しだわ!!


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