理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□夢だけど夢じゃなかった
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 中在家先輩の手の震えは漸く落ち着いた。

「あの、大丈夫ですか」

 背後に声を掛けるとばっと先輩は離れて、

「……すまな、い」

 え、正座したよこの人。
 でかい身体縮めてちょこんと正座してるよこの人。
 心なしか顔が赤い。我に返って照れが出てきたらしい。

「いや。良いですよ。僕も落ち着けましたから」

 中在家先輩はしゅんとした様子で、頭をかくんと下げる。

「……尾浜に君を託されたというのに、情けない」

「そんなこと、」

 中在家先輩と視線を合わせようと、私も正座をする。
 すると、今度は中在家先輩は立ち上がった。何なんだよおい。

「長屋まで送ろう」

「いや、お気遣いなく」

「送ろう」

 拒否権ない感じですか。
 立ち上がろうとしたら中在家先輩が手を差し出した。
 有無を言わさぬその感じに、私はその大きな手に捕まって立ち上がった。












 長屋の部屋まで着いて、中在家先輩にお礼を言った。
 先輩はむっつり無言で一礼し廊下を歩いていく。

 結局、性別については追求されなかった。
 よし。こりゃバレてないかもしれん。

 もし、バレてたとしたら……そうだな。記憶飛ぶまでぶん殴る?
 いやいやどっかのパイセンじゃあるまいし無理に決まってんじゃない。

 やーだー。葵ちゃんったら本当に短絡的なんだからもう!

 とかなんとか自分を茶化すくらいには落ち着きを取り戻しているみたいだ。

「……っしゃ。寝るか」

 私はさっさと床に布団を引く。
 日はまだ高い。夕飯もまだだ。
 でも、私は寝なくちゃいけない。

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