理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で
□人違いから始まるものもある
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決心は着いたけれど行動が思い付かないのが難点だ。
土井先生と別れた後、仕方なく学内をうろうろ徘徊する藤山さんなのです。
誰だ檻の中のゴリラっつったやつ、私か。と脳内ツッコミを入れた。
本当に残念な事に私は物事を深く考えるのが苦手なんだよな。
ゆうちゃんからは良く脳筋少女と呼ばれておりました。はい。
マジで三郎や尾浜君がいないとなんも思い付く事がない。
何かどっかにヒントないか。ヒント。いや、なんのヒントかもそもそもわからん。
と歩き回る内に図書室の前まで来た。
図書室……図書委員……中在家先輩。
連想ゲームだ。
私の足はくるっと踵を返す。
不味い。あの夜の一件依頼、今会うのは超気まずい上に性別がバレている可能性もあり色んな意味でマジヤベエっす。
という訳でフライアウェーイ!
って誰かやって来た。
いや、あれは、まさか。
うわ、心の準備ができてないってかお前も忍たまなら予測して避けろやってこれは理不尽か。
仕方ない、無視はしたくない。覚悟して声を掛ける。
「よ。さ、三郎」
「え」
え。じゃねえよぎょっとした顔すんな、なんだその死んだ目は、て。ん?死んだ目?
目を少し凝らしてみる。微かに霞が掛かっている。
「……あの。僕は不破雷蔵、の方だよ」
「マジか」
ヤベエ。オリジナルの方だったよ。
現在のターゲットだよ。
どっちにしろ心の準備ができとりませんがな、でんがな!
「失礼しました。人違いでございました」
「あ、うん」
頭を下げると彼は苦く笑う。
あれ?意外とマトモっぽいかもこいつ。霞もそこまで濃くない。
今まで真っ向から攻撃っぽいやつばっかりだったけど、これは話し合いで解決できそうじゃね?
それにしてもこの人、顔はまんま三郎だな。
「本当、三郎にそっくり」
「うん?」
思わず口に吐いて出た。
不破君はこてんと首を傾げる。ああ、そんな可愛い仕草は三郎はしないな。
「あ、違うか。三郎が不破君に似ているんだよな。ごめんごめん」
「……いや、別に」
「えーと。不破君はここで何をしてらっしゃるので?」
取り敢えず世間話だ。このチャンス逃すわけにはいかんのだ!
「さくらさんに読み聞かせてあげる本を選びに」
「……さいですか」
読み聞かせってあーた、保育士さんかよ。
しかし、「さくらさん」と彼女の名前を口にした瞬間、霞が濃くなり、私は軽く鳥肌が立つ。
「でも、良いのかなあ?委員会を休んで、授業をサボって、女の子とばかり遊んでいて」
おい!こら!そんな事言い出すのはどの口だ!私の口か!霞に怖じ気づいて口走った私は思わず口元に手をやる。
三郎の煽り癖が移ったみたいだなと思いながらも、揺する程度にはなるかなと彼を見る。
「う………え、えっと……」
え?有効なのか?不破君頭を抱えて悩みだす。
霞が彼の心情を表すようにゆらゆらと揺らめいている。
「不破く、」
「雷蔵君」
なんつータイミングだこら、おい。
廊下の向こう側から逢坂さんがやって来た。
「ごめんね。遅いから待ちくたびれちゃったの。お話し中?」
逢坂さんは私と不破君の顔を見比べる。
「……いえ、大丈夫ですよ。さくらさん」
はっと不破君の顔を見る。
しまった。霞が濃くなっている。彼を捉えるようにまとわりつくそれに私はぎゅっと唇を噛んだ。
「あ、そう言えば私、葵君とお話しがしたかったの!ごめんね、雷蔵君。ちょっとだけ待っててくれる?」
手をぽんと合わせて上目遣い。
でもそんなぶりっ子(死語)が様になるくらい可愛らしい限りで大変素晴らしい。
いや、でも勘弁だ!美少女は世の宝だけども貴女とお話とかちょっと今はマジムリィ!!
「分かりました。では」
ああ、不破君が行ってしまった。
「葵君、迷惑だった?」
「いや、別にとんでもございませんよ」
ああ、背中の汗ヤバい。
凄い可愛いけど何のへんてつもなさそうな少女なのに、このじわりと来る恐怖感はなんだろう。
霞を漂わせながら逢坂さんは図書室に足を踏み入れた。
「来て」
仕方ない。小さく深呼吸をして私は彼女に続いた。
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