理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□まずは一人
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 どうも、藤山葵です。
 忍たまの世界を救うべく忍術学園に編入して早、3日。

 漸く対策が見えてきました。

 三郎、お前の予想、大当たりかもよ。

 目の前で笑う七松さんは『体育委員会』と口にした。
 逢坂さくらに魅いられた生徒達は、皆委員会や授業をサボるようになった筈だ。

「七松さん、」

「七松先輩と呼んでくれ!」

「七松先輩、体育委員会って、」

「おう」と、七松先輩は嬉しそうな顔をする。

「私は委員会の花形!体育委員会委員長なのだ!!」

 なははと胸を得意気に反らしている。

「葵が入ったら皆も喜ぶぞ!」

「皆?」

「ああ!体育委員のやつらだ!金吾や、四郎兵衛や三之助に滝夜叉丸……が…………」

 ふと、そこで、七松先輩の目が大きく揺れる。

「あ、れ?……私」

 七松先輩は頭を抱えた。
 動揺を抑えきれない様子だ。

「……大変だ…………私は、今まで……何をやっていたんだ!!」

 ああ、完全に正気に戻った。
 そう思った瞬間、私の視界がぶんと揺れる。

「うぇっ?」

「葵っ!一緒に来てくれ!!」

 七松先輩が私を小脇に抱えている。

「え、あの!?」

「いっけいけどんどーん!!」

「あぎゃああああ!!」

 そのまま七松先輩は凄い勢いで山をかけ降りていった。

 そうしてマッハで学園に着いた途端、目を回しかけている私を他所に、七松先輩は体育委員会に緊急招集をかけた。

「金吾はどうしたんだ!?」

「き、金吾は裏山で、 」

 演習場に呼び出された子達の内の紫色の服をした子があわあわと答える。てか君、すっごい見覚えあるんだが。

「分かった!!」

「あっ授業なんですよ!?」

 紫色の彼の制止も聞かず、七松パイセン、再び裏山へ疾走。

 残された子達は説明を求めるかのように私を見てくる。
 ごめん、この展開はちょっと私も読めないんだわ。

「よし、金吾も来たぞ!!」

 早えぇ!!二分も掛からなかったぞ!?
 抱えられていた男の子、乱太郎君達と同じ制服だから一年生かな、完全に目を回している。き、気の毒に……。






「皆、揃ったな」

 七松先輩は集めた体育委員会の後輩達をじっと見つめる。
 後輩達は皆戸惑った顔をしている。




「……何しに戻って来たんですか」

「おい、三之助よせ!」

 紫色の子に嗜められた子は、昨日の食堂で泣きそうになっていた子だった。
 今も泣きそうな悔しくて仕方ないって顔をしている。それは他の子達も同様だった。

 無理もないのかもしれない。
 目の前の彼は、ずっと自分達を放っておいたやつなのだから。



「滝夜叉丸先輩だって言いたいことはある筈なんだな!」

「そうです!七松委員長がいない間、滝夜叉先輩は無理をなさって……!」

「よさないかお前達!!」



 紫色の子が足に包帯を巻いているのに気づいた。
 青色の子と一年生の子は既に涙を溢している。

 それでも、紫色の子は皆を宥め、七松先輩の方に静かに顔を向けた。
 七松先輩はぎっと唇を噛みながら彼らを見つめている。



「……七松先輩」


 紫色の子の表情は驚く程に静かだ。
 一体何を言うのかと緊迫していた私は、次の瞬間、目の前の光景にはっと息を飲む。













「よく、お戻り下さいました」

 紫色の子が頭を下げている。さらりと、綺麗な髪が揺れて彼の背中を流れた。
 後ろの子達はぼろぼろと涙を溢しながら彼と、その先にいる男を見ている。彼らの委員長を、



「っすまなかった!!!」


 七松先輩が地に膝を折り、頭を下げた。


「お前達を放っておくなど、私はっ、とんでもないことをしてしまった!!」

 三人の子の啜り泣く声が大きく響く。
 紫色の子は地面に額付く先輩を潤んだ瞳で見ている。


「許してもらえるとは思わない……私は、委員長失格だ」


 七松先輩の顔は見えないが、その声は湿って、掠れていた。

「顔をお上げください」

 紫色の子が膝を付き、そう、七松先輩に告げる。

「滝夜叉丸」

 額を土で汚した七松先輩は、身構える様な表情で彼の次の言葉を待っていた。

「七松先輩のおらぬ体育委員会など、花形に役不足では御座いませんか?」

「……え?」

「もちろんっ!この優秀な滝夜叉丸いてこその花形委員会ではありますが、そこに!七松委員長がおればさらに完璧です!!」



 紫色の子の両目から堪えきれぬように涙が流れる。



「……二度目は、ありませんよ?」


 堰を切ったように七松先輩の目からも涙が溢れだした。
 それが合図だったかの様に、後輩達は一斉に顔をぐしゃぐしゃにしながら彼に抱きつきにいく。

「ふぐっ!七松先輩の馬鹿っ!!」

「僕達っ、ずっと寂しかったんですからね……!」

「うえぇ……帰って来てくれて良かったですうぅぅ!!」



 私はその様子を遠巻きに見ている。
 七松先輩がこちらに顔を向けた。

「良かったですね……七松先輩」

 へらりと笑ってそう言えば、七松先輩はぐしゃぐしゃの顔で力強く頷いた。

「……!……ああ!!」

 ああ、良かった。
 どんなに溝が生まれたってそれを諸ともしない絆や繋がりが彼らの中にはあった様だ。

「感動のシーンだな」

「三郎、尾浜君」

 いつの間にか二人がいる。

「藤山、七松先輩は……」

「うん。完全に霞が晴れた。正気に戻ったよ」

「今後戻るって可能性はないのか?」

「それは無いんじゃないかな」

 再び思い出したその絆が、きっとそれをさせないだろう。



「よし!お前達に紹介するやつがいるんだ!!」

 七松先輩、顔をごしごしと擦ってこっちにやってくる。
 あ、嫌な予感。

「新しい体育委員の藤山葵だ!!」

「おうっ!?」

 ガシッと肩を七松先輩にホールドされる。
 いや、私了承してませんし勝手に決めんな!!

「え、いや、七松先ぱ、」

「わあっ!噂の編入生の人なんだな!」

「優秀とお噂の方ですね。この滝夜叉丸とて優秀!益々完璧ではありませんか!」

「さすが委員長!」

「新生体育委員会結成ですね!!」

 ……人の話聞けよお前ら!!

「よし!皆で葵を胴上げだー!!」

「ちょっ!助けて!!三郎、尾浜君!!」

「諦めろ」

「そんなああああ!!」

 私の叫びは断末魔の如く学園中に響き渡りましたとさ。


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