理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□早くも問題発生
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 食堂に着くとご飯の炊ける匂いと味噌汁の匂い。
 うーん。日本人だ。
 凄くお腹が空いてたことに今更気づく。

「おばちゃん、お早うございます。三人分よろしくお願いします」

「はい。鉢屋君、尾浜君、お早う。あらそっちの子は?」

 お、おぉーーっ!!『食堂のおばちゃん』だ!会えて嬉しいです!!

「昨日、五年に編入して来たやつです」

「お、お早うございます!藤山葵と申します」

「よろしくね。私は食堂のおばちゃんよ」

 はい、存じております!
 にこにこと笑いながらもおばちゃんはてきぱきと三人分の朝食をお盆に乗せていく。

「はいよ、朝食三人分。お残しは許しまへんで!」

 キター!!
 生『お残しは許しまへんで』頂きました!ありがとうございます感激です!!

「おい、早く座るぞ」

 三郎に急かされて、席に向かう。
 食堂はなかなか混雑している。

「ここ、三人いいか?」

 尾浜君が黄緑色の服を来た子達の座る席に声をかける。

「あ、どうぞ。尾浜先輩に鉢屋先輩。それと……藤山さんですよね?」

「うん、ありがとう。藤山葵です。よろしく」

 黄緑色の子の一人がよいしょと席をずれてくれて、少々狭いけどなんとか三人座れた。

「頂きます」

 手を合わせて味噌汁をそっと啜る。

「っ!なにこれ美味いっ!!」

 出汁がしっかり効きながらも薫りの良い味噌の風味。
 味噌汁のナイアガラや!!大革命や!
 ご飯も炊きかげんが絶妙で、漬け物も良い浸かり具合、付け合わせのひじきも良い味をしている。
 お腹が空いていただけあってがつがつと夢中で食べ進めた。

「……藤山、もうちょい落ちついて食えよ」

 三郎が呆れた顔をしてるがんなもん知るか、美味しいは正義だ。


「おばちゃんの料理は絶品だから仕方ないですよ」

 と黄緑色の子の一人が苦笑いしている。
 うーん美味しい、美味しいことは良い事だ。
 朝の出来事も忘れそうになったのだが、その時、ざわりと食堂の空気が変わるのを感じた。

「……ん!?」

 私も腕に鳥肌が立つのが分かる。  両隣の三郎と尾浜君は何でもない様な顔で味噌汁を啜ったりしているけれど、二人の緊張がビシバシと伝わってくる。
 黄緑色の子達の固い視線は、食堂の入り口に向けられている。


 この感じは、昨晩の……。


 鳥肌を立たせながら入り口を振りかえると、緑色と群青色の集団に囲まれて、小柄な女の子が入って来た。


「あ、今日のおかずはひじきだよ。小平太君にあげるね?」

「わーい!良いのかさくらちゃん!」

「おい、狡いぞ小平太!」

「さくらさん、私のおかずで宜しければ差し上げます」

「仙蔵までっ!?」

「もうっ、皆喧嘩しないで……」



「……あれか」

 私の呟きに尾浜君が小さく頷く。
 沢山の男の子達を引き連れてにこにこ微笑みながら可愛らしい声で喋る、あの子が、逢坂さくら、か。
 どんな奴かと思っていたら遠目に見ても可愛い。ふんわりとしたボブヘアーのスイーツでマカロンな感じ、

「うっ」

 ……前言撤回。
 あの濃い桃色の霞が見える。
 周りの少年達を捕らえているように漂うその霞は、間違いなくあの子から出ている。
 って、うわ、ヤバイ、じろじろ見ていたら目があった。

「あれー?三郎君に勘右衛門君。お早う、その子だぁれ?」

 近づいて来た!!
 ちょっ、まだ心の準備が!

「お早うございます。逢坂さん、こいつは藤山葵。昨日やって来た編入生ですよ」

 あわあわしていると、三郎がさっと庇うように私の肩に手をかけながら逢坂さくらに話しかける。
 三郎、今だけはお前が輝いて見えるぞ!!

「昨日?」

 こてんと首を傾げる逢坂さくら。
 そんな仕草も様になるくらい近くで見ても可愛い。睫毛長いなあ、てか巨乳だこの娘……羨ましいなちくしょう。

「ええ、昨晩の全校集会で紹介されたんですが、逢坂さんは寝てましたかね?」

 と尾浜君。
 表情はにこやかだがその喋り方から冷たい空気が伝わってくる。
 それは周りの黄緑色の子達からも同様だった。

「えぇー?そうなの?」

「ああ、そうだぞ!さくらちゃん」

 逢坂さくらは、すぐ横に立つ緑の服の青年を見上げている。
 髪がライオンみたいな快活な青年なのに目から生気が感じられないのにぞっとした。

「……七松、先輩」

 消え入りそうな声に振りかえると黄緑色の子が、悔しそうな泣きそうな顔をしていた。
 その表情があまりに悲しそうで、思わず胸が痛む。

「もう、起こしてくれたら良かったのにぃ!」

「なはは、すまんすまん、良く寝ていて可愛かったからな!」

「七松先輩。さくらさんも早く食べましょうよ」

 奥の席から青い服の少年が声をかける。
 その顔は三郎にそっくりだった。

「三郎……?」

 三郎の手がぎりぎりと肩に食い込む、見ると爆発寸前みたいな凄い形相だった。

 そんな私達の様子に気づいてないみたいに、逢坂さくらと取り巻きの少年達は奥に向かった。
 さっきまで和やかだった食堂の空気が冷たい。
 それとは対照的に逢坂さくらと周りの少年達の笑い声が楽しそうに響く。
 私は私で彼女達を中心に濃いピンク色の霞が漂うのを感じ、息苦しくなってくるのだった。

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