理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□蘇っちゃった
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「棺桶に片足突っ込んでる」という表現があるけれど、今の私がまさにそれだと思う。
 そろそろヤバイと思う。

 目の前に幽霊がいる。

 もうすでに見慣れた、寧ろ見飽きた夜中の病室の天井付近にふよふよと半透明のお爺ちゃん@白髪おかっぱ。

 御先祖様かな。あれだ。あの世からお迎えってやつだな。



 だが断る。

 御先祖様よ、ぱっつん前髪が許されるのはもっとスイーツでマカロンな、そうこの前雑誌で見た読モのあの子ぐらいだぜ。お前がやるとハマちゃんだよ。ガキ使だよ。

 私のお迎えなら、ハマちゃん老人バージョンではなく美少女か美少年を連れて来いってんだ。


 という訳でお帰りやがれ下さいと睨んでやったら、おかっぱジジィはうんうんと頷いて消えていった。

 よし、勝った。

 なんだか疲れたので、もう寝飽きたけど目を閉じた。

 しかし、どっかで見た様なジジィだったな。















 そして、やっぱりお迎えだった。




「バイタル低下しています!」

「除細動お願いします」

「藤山さん!葵ちゃーん!!聞こえますか?分かりますか!?」


「家族に連絡を!」



 昔、本で読んだ『聴力は最期まで残る』ってのは本当だったみたいだ。

 家族と聞いた時に、真っ暗な視界に眉の太いおっさんの笑顔が浮かぶ。
 然し、最期に思い出すのが父ちゃんの顔とはね。

 父ちゃん、泣くなよ。
 父ちゃんは泣くと不細工だからな。

 私達はこの日が来ること自体は何度も覚悟していた筈だから。


 ああ、でも悔いはあるかもしれない。
 小さい頃の夢、オリンピック出場……我ながら子どもならではに安直過ぎる。
 だけど、インハイくらい行きたかったな。 
 それと、少ししか行けなかった高校だけど、そこでできた友達。中学生の頃から側にいてくれた親友……中学、の事を思うと、多分もう冷たくなりつつある胸がズキリと痛む気がした。
 

 そして、父ちゃん。

 一人にしちゃってごめん。

 私は先に母ちゃんに会ってくるよ。


 行き着く先は、なんか、それほど良いところじゃない気もするけど。

 脳裏にまたふっと何かが浮かんだ。余りにも淡くて分からない、けど、酷く悲しくて痛いという言葉だけが滲む様な感じがする。



 思考は散々に途切れ、その『悲しい』と『痛い』の中へ、私の何もかもが溶けていった。そんな気がした。

 

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