理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□思惑それぞれ空の内
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「ぐ……ぅおおお、あし、あしが、」

 午後の授業終わり、私は壁に手を着いた状態で一向に立てそうにも無かった。

「てか午後丸々座禅ってどういう事よ……」

 そう、午後の授業は武道場開けきってのいろは合同ぶっ続け座禅でした。
 因みにお察しの通り、葵さんは座り方が悪かったのか、足が滅茶苦茶痺れている。

「 んー、この後羽目を外さないよう、萎えさせる訓練?」

「ちょ、勘ちゃん表現」

 勘ちゃんはへたり込んでいる私をにやにやと観察するだけで手を貸してくれる様子も無い。
 その隣の兵助やハチや雷蔵君も繁々と見ているだけだ。なんなの君たち。またも三郎はいないし。

「てかさー、聞いたよー?俺達の誘いは断って利吉さんとは祭り行くんだって?」

「あ?」

 思わず兵助化した。
 ハチめ、やっぱり喋ったな。あからさまに目を逸らすな。

「多分、そこにいらっしゃる竹谷君から聞いたとは思いますけど、偵察任務への同行ですよー」

 皮肉を込めて言ってやれば饒舌に目で謝って来たのでまあハチの事は許してやろう。垂れた尻尾と耳の幻覚が見えるよハチ公君。
 人の口に戸は立てられないとは言うけど、此奴ら全員知ってるって事は多分三郎も知ってるんだろうな、と微妙に憂鬱な気分になるのだった。

「本当に任務だと思って行くわけ?」

「どういう意味だ勘ちゃん」

 痺れた足を揉んでいる内になんとかギリ立てそうな感じになってきた気がする。つってもまだ足の感覚殆ど無いけれど。

「あの人さ、仕事でもないとそういう誘いできない人だから、任務だっつーのは本当だと思うよ」

 そう答えれば四人は微妙な表情で顔を見合わせている。
 勘ちゃんは苦笑を浮かべて頭を掻いた。

「俺らとしては、あの三郎の面倒くさい状態をどうにかして欲しいところなんだけど」

「向こうが勝手に避けまくってんのに私がどうこうできる訳ないでしょ」

 せっかくギクシャクしていたものが無くなったと思えば直ぐこれだ。私にどうして欲しいってんだよあの馬鹿は。
 溜息を吐いたら、何故が周りの四人も一斉に溜息を吐いて総勢五人分の溜息が武道場を流れた。

 と、同時に、勘ちゃん達の肩越しに武道場へ入って来る人影が見えて、私は思わず「うげっ」と顔を顰める。

「やあ、君たち。済まないが少しの間彼女を借りていっても良いかな」

 な、ん、で、き、た!!?

 スタスタと此方へやって来た利吉さんは爽やかかつ何処か凄みのある笑顔で勘ちゃん達を見下ろす。
 止めろって、勘ちゃん達は関係ないじゃんか。
 足が痺れていなかったら即刻蹴り飛ばすか手刀のひとつでも落としてやりたい所。

 利吉さんはへたり込んでいる私を見て、「ああ」と笑う。あ、嫌な予感。

「失礼」

「おぶっ!!ちょっ!」

 ぐいっと腕を引かれて無理やり立たされる。
 よろけた所をあっさり抱き留められてそのまま横抱きにされた。
 勘ちゃん達はぽかんとした顔でそれを見ている。助けろとは言わん、言わんができたら誰か助けてくれたら嬉しい!

「まったく、座禅程度で足が痺れるなんてどんな座り方をしていたんだか」

「あの、下ろしてはくれませんか?」

「ん?」

「ん?じゃねーよ!ちょっ、そのまま歩き出すな止めてください!!」

「歩けないんだろう。今度足の組み方は教授してあげる」

「結構です!」

「先ずは着替えて貰わないと」

「聞けや!!」

 お得意のスルースキル全開で私を抱えたままスタスタと歩き出す利吉さん。
 視界の端に映った皆が何とも言えない顔をしていた。勘ちゃんは合掌していた、止めろ。

「あーっ!もうっ!!」

 襟首を掴んで引き寄せる勢いのまま頭突きを噛ます。
 ガツンと凄まじい音がした。イケメンの顔にと罪悪感が沸かないでも無かったがこうでもしないと降りれないだろうしまあ良しとする。なんか背後から「うわ、」とドン引きした声が聞こえた。

 額を押さえている利吉さんの手から着物が包まれてるんだろう風呂敷を奪い取れば、腕を掴まれた。いっそ怖いわこの人。

「逃げませんし、ちゃんと着替えてきますから、良い子で大人しく正門前で待っていてください」

 力が緩んだ隙に腕を振り払い私はよろよろと歩き出す。

 ……なんか後ろから着いてきてる気がするけどもうツッコむのは諦めた。


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