理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□気紛れアミダと迷子の連行
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 咳払いして、左門君を見返す。

「左門君は何処に行こうとしてたのかな?」

「会計委員会室です」

 でも見当たらないんです。と、困った顔をして頬を掻いている。

「そりゃそうだ左門。此処は学園の裏門近くだぞ」

「学園の、裏門……?」

 左門君の賢そうな目がくるりと三郎を見た。それから指差された先の小さな門を見て、ほんとだと目を瞬く。

「え、じゃあ、お二人はこんな人気の無い裏門近くで何をされていたんです……?」

 んん……こりゃ変な誤解を産みかけてるのか?
 左門君のやたらと真剣な眼差しに苦笑いになる。

「えっとね、左門君を探しに来たんだよ」

「僕を?」

「会計委員会に視察だ」

「視察?」

「視察というか平たく言ったら見学だね、私の」

「おお……!」

 左門君はきらりと目を輝かせ、ふんすと息巻く。

「では!僕がご案内します!!会計委員会室は此方ですっぐえっ!?」

「何故、お前が案内できると思ったんだ」

 三郎に首根っこを捕まれて、つんのめる左門君だった。
 然し、三郎も僅かによろけたから結構なパワータイプだなこの子。

「じゃあ、此方だ!」

「違うわ!!」

 今度は本格的に転けかる三郎。
 うーん、こんなんやってたら何時まで経っても辿り着かない。

「おい、ぼさっと見てねえで藤山も手伝え!」

 笑い崩れた上に左門君に振り回されて、元々持久力にやや掛ける三郎は息が上がりかけている。

「うん、よし。左門君」

 左門君の前に回り込んで、手を差し出す。

「手を繋いで行こう」

「え」

 あれ、ちょっと嫌そうな顔だ。

「僕、子どもじゃないです」

 ああ、成る程ね。三年生は微妙なお年頃だ。

「んー、でも急に走って行っちゃうと見失いそうだし、三郎も疲れちゃうし、ゆっくりお話しながら行きたいな。私は繋ぎたいんだけど、嫌かな?」

 左門君はじいっと私と私の手を見比べて、漸く、そっと手を伸ばしてきた。

「そういう事でしたら仕方無いですねえ」

「うん、ありがとね。もう片方は三郎と握ってくれたら嬉しいな」

「良いですよ」

 左門君は快く間に挟まれた。
 大人ぶりたいとは言えやっぱりまだまだ甘えたい所もあるのか、満更でも無い顔で手を握り返してくる。

「では会計委員会室へレッツゴー!」

「え!此方だったんですか!?」

「此方なんですよー」

 エイリアンの連行の様な構図だが、両手が塞がって機動力が抜群に落ちるし、流石にこの状況で暴走は出来ないだろう。葵さんの完全勝利だぜ、やったね!

「ほら左門君、あの雲見て、魚みたいじゃない?」

「ほんとだ!!あっちにもありますよ!じゃあ、あの隣は蛸ですね!」

 それに基本は素直な質というか、目の前の事に猪突猛進タイプの左門君は少し気を逸らしてしまえば楽しそうに雲の形を見ながら私達に手を引かれてテクテクと歩き出す。

 ……マジでこの子、何時か人拐いにあわないか弱冠心配にはなるなあ。
 現に今も私、すっごい連れ帰りたい衝動押さえてるし。

「……手馴れてるな」

 左門君を挟んで隣の三郎がボソリと言った。

「え、ほら、村の子供組とかあるじゃない」

 吉田村は結構子どもが多いし、五歳で拾われた私はあっという間に年長組になったから小さな子の扱いは自然と身に付いている。

「……私は、無いな」

「そうなの?」

「鉢屋家でずっと修行してたから、同じ年頃の友人なんていなかった」

 少し遠くを見ている様な三郎の横顔を、思わずまじまじと見つめる。
 三郎が自分自身の身の上を語るなんて凄く珍しくないか。

「鉢屋先輩!あれ、尾浜先輩みたいですよ!!」

「ふは、確かにありゃ勘右衛門の髷だな」

 左門君と一緒になって空を見上げる三郎は元通りの生意気そうな、でも優しい笑顔だ。

「うんうん、今は三郎君には友達いっぱいいるもんな」

「……その言い方、すげえ腹立つ」

 笑顔から反転、しかめっ面で私を睨む三郎に妙に優しい気持ちになってしまうのは、恐らく真ん中にいる癒し空間製造機の効果だろうな。と、そう思っておくことにした。

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