理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で
□気紛れアミダと迷子の連行
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そんなこんなで不本意ながらも、今日の放課後から三郎と委員会の視察を始める事になった。
本日の最終授業の終わりの鐘が鳴り、ばらばらと人が出ていく教室。その窓際に佇む三郎に近付く。
窓から見える正門前を土煙が爆走していった。
良く見えなかったけど、今日もいけどん様は元気らしい。続いて、萌黄色の制服の子がなにかしらを叫びながら爆走、いや、迷走していくのが見えた。
「で、何処から行こう?」
「私は何処でも良い」
心底面倒くさそうな溜め息を吐く三郎。私も私で決めて良いと言われても委員会について良く分かってないので困る。
「んー、アミダ籖すっか」
教室の隅に置いてある裏紙の束から一枚を持って来て、簡単な籖を作る。
そうして、適当に選らんだ線を辿っていき、ひとつ、決まった。
「よし、三郎。今日は此処で」
三郎は私の示した委員会の名前をちらりと一瞥し、ぎっと桟を揺すりながら窓際から離れた。
「じゃあ、さっき走ってった奴でも回収してから行くか」
「ああ、さっきのね」
二人廊下へ出て、一先ずは決断力のある方向音痴と名高い、三年ろ組の会計委員、神崎左門少年を探しに向かうのだった。
三郎の予想通り、左門君は裏門辺りをちょろちょろきょろきょろと動き回っていた。
「うおぉぉおおおっ!!会計委員会室が消えたああああっ!?」
いや、消えたっつーか、ある筈無いよね。物凄く反対方向だからね。
この辺あんのは厠くらいじゃんか。
このままだと元気いっぱいのこの迷子は裏門の外まで出ていき兼ねない。
三郎がしゃーねーなと苦笑いした。
「おい、神崎左門」
「はっ!この声は五年ろ組の鉢屋三郎先輩!?」
うん、君が見ているのは松の木だ。
「おお!?今日は木に変装されているのですか!?」
「うっそだろ君!?」
三郎がぶふぉっと吹き出して崩れ落ちた。後輩に関しては本当に沸点低いよなこいつ。
そして左門君は私のツッコミに、え?え?とあらぬ方向をきょときょと見渡している。
「ほら、ここ。ここにいるから」
直ぐ後ろにいるのになんで気付かないんだか。
肩を叩いてやれば漸く振り返り、ぽかんとした顔をしている。声の大きさに比例する様な大きな口だ。
「あ、あなたは五年ろ組の編入生の藤山葵さんではありませんか!」
「うん、今日は」
「こんにちは!!」
ニッパアと此方が心配になるくらいの無防備な笑顔についつい頬が緩む。
「あ、鉢屋先輩が人間の姿で倒れている!」
ひょいっと私の脇から後ろを見て左門君が叫ぶ。まだツボに入ってんのか三郎。
「大丈夫ですか!?御加減が悪いのですか!?」
「あっ、ちょっ!?」
三郎のとこに行こうとしてんのかこの子!?
ブーメランみたいに軌道反れてってんぞ!?
「三郎っ!マズイ、止めて!!」
「っ、くっ!」
このままだと明後日の方向に走っていってしまいそうな左門君をがばりと起き上がった三郎が寸での所で抱き留めた。
「あ、あれ?鉢屋先輩……?」
またぽかんとした顔になった左門君の腰にしがみつくようにしている三郎。
「教育上宜しくない眺めというか、不審者感半端ないな」
「うっせ、藤山」
「鉢屋先輩、御加減は悪くないのですか?」
……えぇ……この状況でもまだ三郎の体調を心配しちゃうかこの子。
以前からも思ってたけど、ほんとピュアというか真っ直ぐっつーか……。
「ああ、私は元気だよ」
「それは良かったです!」
胸を撫で下ろしながらまたニッパアと満面の笑顔になる。
……うあ、胸にキュンとくる。
「……三郎、この子連れて帰りたい」
この荒れくれた乱世にとんだ天使が降臨しちまってるよ!癒し空間製造機だよ!
「どっかの用具委員長みたいな事言ってんじゃねえよ」
「それ全く伏せれてない」
「まあ、気持ちは分かるが」
「分かるんかい」
三郎にぐりぐりと頭を撫でられながら左門君は、不思議そうな顔で私達を見比べている。
ああ、そうだそうだ、和みすぎて本来の目的を忘れかけていた。
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