理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で
□もしかしなくとも波瀾の予感?
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さてさて、日暮れも近付いている訳だが、降って沸いた(私にとっては)明日の五年合同実習に備えて勘ちゃん様の指令をこなさねば……ってんで、現在、葵さんは学園内を徘徊中ですよ。
っと……おお、いたいた。
裏門付近にぽかりと開いた穴から、規則的に土がざざっと飛び出している。
「へい、少年」
その穴を覗き込んで声を駆ければ、泥だらけの美少年がおやまあと呟きながら見上げてきた。
「喜八郎、これなーんだ?」
「……おやまあ!」
おやまあダブル頂きましたー。
先程、おやつ大臣勘ちゃんから預かってきた包みの中身を取りだし、ちらつかせると、面白い様に反応を見せてくれた。
「欲しいかな?」
そう聞けば、キラキラと目を輝かせた喜八郎は私の手の中のプリンめがけてわっせわっせと登ってくる。
何時も我関せずマイペースボーイの癖に好物はプリンとか可愛すぎかお前。
「おっと」
あっという間に穴から這い出てきた喜八郎の手を掻い潜り、私はプリンを頭上に掲げる。
「喜八郎、頼みがあるんだ」
「プリン」
「……聞いてる?」
私の頭上に視線ロックオンで外す気配がないんだけどこいつ。大丈夫か、ちょっと兵助を彷彿とさせるぞ。
「明日の裏々々山での実習の為に作法委員会が仕掛けた罠の位置を教えてくんない?」
「おやまあ」
なんだかんだで話は聞いてるらしい、おやまあトリプルを頂きました。
「葵が僕を買収するなんて」
「まあ、そう言うな」
人聞きの悪いと言いたいところだが、事実買収なので言い返せない。
然しながら、口では苦言めいた事を言ってる喜八郎の目は何処と無く楽し気だ。
「プリンと、今度葵が一緒に遊んでくれて宿題手伝ってくれるなら教えてあげる」
「ありゃ、ふっかけてくるねえ」
まあ、まだ想定の範囲内。此れぐらい可愛いもんだわ。
「まあ、良いよ。御安い御用だ」
「やったねー」
本当に喜んでんのかってくらい抑揚の無い声と共に万歳する喜八郎にプリンを渡せば満面の笑みを浮かべるのだった。
「よ、お待たせ尾浜司令」
「おお、御苦労藤山君」
忍たま学舎の空き教室の天井板を外せば、そこで待っていた勘ちゃんが見上げてにやりと笑う。
私もにっと笑い返して、手の中の紙片をひらひらと振った。
「我、入手せり」
「でかした」
流石は綾部の第三守役、と、軽く拍手する勘ちゃんの隣へと降り立つ。
第三ってなんだよと聞けば、第一が作法委員会委員長の立花先輩、第二が同級の平滝夜叉丸だそうだ。成る程把握。
「作法委員会といや……やっぱりえげつないの仕込んでるなあ」
私から受け取った裏々々山の絵図と罠についてのメモを見ながら勘ちゃんはうへえと顔をしかめた。
まあ、喜八郎も上級生の実習との事なんで遠慮なく仕込みましたとかなんとか、プリン頬張りながら良い笑顔で言ってたな。
「ただ、完全に見切れない様には仕込んでないらしいよ。冷静さを欠いてたりとか状況にも寄るだろうけど」
「ま、だろうな。どっちにしろ此れを知っているだけでもかなり違う。存分に利用させて貰うとしようか」
ヒュー!!悪人面勘右衛門様格好良いぜ!痺れる憧れるぅ!!スイーツラバー狸うどんってだけじゃなかったんだな!
「あれ?今、何か凄い馬鹿にされた気がするんだけど」
「いえ、とんでもござんせんよ。ちょ、その笑顔止めて」
まさかの読心術遣いな勘右衛門様はにっこり満面の笑みで私を睨む。笑顔なのに凄んでるとか何処のヤンキーだってんだ。
「……じゃ、打合せも色々としたいから今晩は俺の部屋に泊まるか」
「止めて下さい。マジ勘弁してください!!」
背景に暗雲のエフェクトを出す勘ちゃんに平謝りすれば、ふっ、と表情が緩んだ。
「馬鹿だな。冗談だよ。……三郎を差し置いてそんなん出来るわけないじゃん」
「……三郎は、関係ないだろ」
今度は私が不機嫌になる番だった。
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