理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□もしかしなくとも波瀾の予感?
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 勘ちゃんから聞いた実習内容は、所謂、尻尾とりの様なものだった。

 紅白二色の札を数枚ペアで所有し、他ペアと奪い合う。

 最初の所有枚数が各チームの最初の点数になる。

 白札は得点数が五点。取られた場合、最初の点数から一点が引かれる。

 赤札は得点数が十点。然し、赤札は取られた側のチームにも一点が加算される。

 失格条件は、点数が五点以下となった時と設置されている罠に掛かった時。

「つまり、札を取られず他ペアから札を取りまくったら勝てるんじゃないの?」

「まあ、単純に言ったらそういうことなんだけどな」

 ただし、と、苦笑を浮かべながら勘ちゃんが続ける。

「今回は合格の条件もある……終了時の得点数が三十点、若しくはそれの上下三点差以内である事だ」

「ほあ?」

「ついでに言うと、今回の実習は誰と誰がペアになっているか事前申請しなくてはならなかった」

「あ、そうだったんだ。じゃあ、勘ちゃんと私は結構ギリギリだったんだね。申請は、」

「俺がしておいた。……まあ、でも、気にするとこはそこじゃないんだよなあ」

 どういう事だ?分かるような分からんような……苦笑を浮かべる勘ちゃんに疑問符を浮かべていれば、しょうがないなあと溜め息を吐かれた。

「意外とば……鈍いよね葵って」

「おい、今馬鹿って言いかけたろ」

 否定はしないけどさ。

 悪い悪いと軽い謝罪の後、つまり、と勘ちゃんが再び切り出す。

 つまり、最初に与えられる札の数はペアに寄って違うという事らしい。

 だから、最初から合格点内の場合もあれば、合格点よりも点数が高すぎる場合もある、反対に低すぎる場合もある。

 そして、それはランダムとかではなく、先生方がペアを見て意図的に決めるもの。各ペアの最初の点数も生徒達に知らせられる。

 自分達の点数、各ペアの点数を見て、誰がどう動くか己がどう動くかを考え、合格点内を目指さなくてはならない。

「や、ややこしや……」

 つまり単純に取りまくるもんでもないって事らしいのは分かった。なんか凄い頭脳戦なんだが。

「上級生の実習だからね。特に五年担当の木下先生は結構複雑なの考える方だし。まあ、俺が色々と考えるから、葵は言われた通りに動いてくれたら良いよ」

「了解。着いていきやす尾浜司令」

「うむ、頑張ってくれたまえ藤山君」

 まあ、適材適所だ。勘ちゃんがペアで助かったと思う。

 そんなこんなで、結局簡単な打合せだけをして、当日の作戦は勘ちゃんにお任せと相成った訳である。




 翌日の早朝。
 集合場所である裏々々山はまだ宵の内の様に薄暗く、肌寒さにぶるっと震えていたら大丈夫かと声を掛けられた。

「また風邪引くなよ」

「大丈夫だ、よっ!?」

 心配そうな顔をしていたハチに答えていたら肩をぐいっと引かれる。勘ちゃんだった。
 にやりと笑いながらもハチを睨んでいる、だからその表情はヤンキーっぽいって。

「こら、ハチ。今日は葵は俺とペアなんだから気安く話掛けないように」

「なんだよ。心配しただけだろ?」

 ムッとした顔をしたハチに私もそうだよなと苦笑する。
「どーだか」と、勘ちゃんが肩を竦めた。

「葵がハチを人畜無害だと思ってるのを良いことに色々聞き出そうとしてない?」

「しねえよ。てか、人畜無害ってなんだよ。なあ、葵っておい!目を逸らすな目を!!」

 うーむ、言っちゃ悪いがハチはからかい甲斐があるよなあ。

 へらへら笑っていれば不意に心臓が跳ねた。

 三郎がじっと無表情で、此方を見てる。
 あ、と何かを言おうと小さな音が私の唇から溢れた瞬間、ふいっとその刺さる様な視線は外され、三郎は雷蔵君に笑いながら何事か話し掛けている。
 さっきの妙な冷たい様なキツい表情なんて無かったみたいだ。

 ちら、と、此方を見た雷蔵君は少し申し訳なさそうな、曖昧な表情で目を伏せるのだった。

 集合の呼び声が掛かる。

 どうなる事やらと、勘ちゃんに肩を押されるままにのろのろと私は歩き出すのだった。

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