理不尽に爛漫に/道理に叶って絢爛で

□唐突に女子会(半強制的)
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 不運もとい保健委員会見学は、最初の一件以降は身構えていた程の不運も起きず、そして雑渡さんとの再会以外は比較的穏やかなものだった。
 とはいえ、その例外的不穏要素な雑渡さんとのあれこれに、私も三郎もそれなりに消耗したのか、帰り道は二人とも黙りと、とぼとぼと少し暗い表情で歩いていたのだった。
 そうしている内に、くのたま学舎の入り口が見えてきた。
 近くに植わる老梅の手前で三郎が足を止める。入り口付近にも仕掛けられている罠を警戒しての事だろうが、その動きに、今更ながら送ってくれたんだと実感した。まるで当然の様に二人並んで歩いていたから気がつかなかったんだ。とも。

「ありがとう」
「うん?……いや」

 お礼を言えば、三郎は一瞬キョトンとして、それから小さく笑いながら首を横に振った。

「送る体になったのに、今気づいた……何も考えずに歩いてたな」

 そう、やたらと柔らかく笑う三郎に、少しだけドキリとして、それを誤魔化そうと私はさっさと踵を返す。

「じゃあね」
「ああ、また明日」
「うん」

 また明日。と、振り返って見れば、三郎はまだ此方を見ていて、小さく手を振れば、漸く背中を見せて歩き去っていった。
 私は、何故かよく分からないままに込み上げてきた息をそっと吐いて、罠を避けながらくのたま学舎の中へ入っていくのだった。

 ……さて、今日は、否、今日も。か?とにかくちょっと疲れたから早めに風呂浴びてさっさと寝たいなあ。と、そんな事を思いながらも、いやそういう訳にも行かないと考え直させるのは袂に入れてあるもののせいだ。
 雑渡さんに密かに渡された、何か。渡された時は碌に見て無かったけど、そっと取り出したそれは思った通り、結び文だった。
 だけど、掌の中に充分隠せる、高々小指一本くらいの長さしか無いそれは、艶書なんかである筈もない。いや、逆に艶書だった方が怖すぎるわと、独りツッコミを入れながらそれを開いて、中を見る。
 さっと目を通して、直ぐにしまい込んだ。こっちに近付いてくる賑やかな気配に目を向ける。

「あっ!いたいた葵さん!」
「お帰りなさい。遅かったら迎えに行こうと思った所だったんですよ」

 長屋では隣室のあやかちゃんとみかちゃんがそうにこやかに駆け寄ってくる。

「迎えに?何か用事?」

 そう聞けば、うふふと笑いながら目を見合わせる二人。可愛らしいけれど、くのたまちゃんが可愛いと感じる時程碌な事が無いのは良く分かってるので、少し後退りしたい気分になる。

「ユキちゃんがご実家からお菓子を沢山頂いたんです」
「それで皆でお茶会しましょうってなって、葵さんも是非いらしてください」
「お、お茶会?」

 けれど、返って来た返事はなんとも他愛が無くて拍子抜けする。
 てか、お菓子とかお茶会とか……

「あのー……今って夕飯時じゃないかと思うのですが?」
「やだなあ葵さん。細かいことは気にしちゃだめですよぉ」
「ちょ。みかちゃん、それ七松先輩の十八番だから」
「大丈夫ですよ。おにぎりや餅もありますもの」
「あやかちゃん、何が大丈夫なのか葵さん良く分かんない」

 まあ、とにかく行きましょう。と、その強引さにまたも一抹の不安を感じなくもなかったけれど、美少女二人に両サイドから腕をからめられてしまえば最早無下にして逃げる気も起きず、私はそのまま長屋の方へと連れられていくのだった。

 で、連れられて行った先はユキちゃんトモミちゃんオシゲちゃんの部屋で、そこでは二人の言っていた通りに本当にお茶会が開かれていた訳なんですけれども。

「カ、カステラに金平糖に落雁だと……!?」

 どう見ても高級菓子かつ量もそれなりにあるそれらに加えて餅菓子やおにぎりまでずらりと並んだ状況に冗談抜きに目が飛び出そうになった。
 これお茶会はお茶会でもお姫様のお茶会じゃありませんか。

「ああ、葵さん。良く来てくださいました」

 部屋の入り口でアホみたいに立ち尽くす私の前にやって来たのはユキちゃんだ。

「実家に少しだけ送ってほしいと頼んだのですが、学友にもとこんなに送って来まして」
「お、おお、そうか……」

 困りましたとでも言いたげに苦笑するユキちゃん。そういやご実家はさる良家だったかこの子……セレブだセレブ。

「お招き頂き、ありがとうね」
「いえ、どれも味の良いものですが、皆で食べる方がより美味しいし楽しいですもの」

 そう微笑んで私の手をそっと引くユキちゃんの優雅なお嬢様っぷりにややビビりながら、部屋の中へと入る。奥の方に座っているカグさんとハツメさんが手を振って来たのでそちらへ行く事にした。

「やあ、葵」
「授業お疲れ様」
「帰っていらしたんですね。そちらこそ、任務お疲れ様です」

 カグさんが嬉しそうに隣の床を叩くので、遠慮無くそこに腰を下ろした。

「まだ使える湯飲みあるか?」

 カグさんがそう周りのくのたまちゃんに聞けば、輪の中から恵々子ちゃんがさっとやって来て私にお茶を差し出した。

「あ、ありがとう……」
「いえ、熱いので気をつけてくださいね」

 そうおっとりとした笑みを浮かべる恵々子ちゃん。ふわふわした髪も合間ってなんというか癒し系だ。
 お茶をちびちびと口にしながら部屋の中に目を配る。
 中々の大人数に加えて、どの子も美少女と来たもんだ……くのたまちゃん恐るべしと言うべきか。然し、きゃいきゃいと談笑に耽る姿は年相応な女の子といった感じで私の頬も自然と緩む。

 うん、なんか久し振りだなあこの感じ。
 普段から男忍び同然に忍たまやってる身としたら、空気も心無しか甘く柔らかい感じがする。
 最初の一抹の嫌な予感なんか何処へやら、私はすっかり気を緩まして、綺麗な黄色のふっくらとしたカステラを、一切れ手に取るのだった。

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