*それぞれの艶物語*

□土方歳三 # 1-3
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しばらくの間、優しく抱きしめられながらスーツにしがみついていた。土方さんの耳にかかった黒髪が私の左頬を擽る度に、胸の鼓動は激しさを増していく。

次第に、土方さんの形の良い唇が耳元から首筋へと流れてゆき、そのぞくぞくとした感触に思わず声が漏れてしまう。

「あっ…」

逞しい腕に触れながら、その甘い抱擁に身を震わせていた。その時、「帰るぞ」と、いう一声と共に距離を置かれた。

(帰るのか…そうだよね…帰らないとね…)

そして、呆然としている私を残し、部屋を後にする土方さんを目にして大きな溜息をついた。一人残され、胸のむかつきを必死に堪えながら、さっきまで傍にあった土方さんの温もりを思い出して泣きそうになる。

これが現実…

(…不細工な顔してるんだろうな…私…)

しばらくして、沖田さんと一緒に戻ってくると、土方さんは沖田さんに二人分のバッグを持たせ私に手を差し伸べた。

「立てるか?」
「…あ、はい…あのお勘定は…」
「今夜は、俺達のおごりだ」

土方さんに支えられながら立ち上がると、沖田さんも、「タクシーを捕まえてありますから」と言い、優しく支えてくれた。

そして、お店の前で沖田さんから荷物を受け取り、改めてお礼を言った。次いで、停まっていたタクシーに乗り込むと、土方さんは行先を告げて黙り込んだ。

(え、そっちの方向って…)

すぐに、土方さんの節目がちな視線と目が合う。慌てて目線を逸らしたが、ふいに肩を抱き寄せられ体勢を崩す。

「えっ…」
「…今夜は俺の傍にいるんだろ」

(それって…)

思いもよらない言葉を耳にし、私は答える代わりに土方さんの腰に手を回してギュッと抱きついた。さっきの言葉は、本音だったのだろうか…。

「…泊って行け」

土方さんは、窓の外を見ながらポツリと呟いた。

「…いいんですか?」
「ああ……」

タクシーが早く止まらないかと思う反面、ほんの少しの不安がまだ私の心を覆っていた。




やがて、タクシーを降り近所のコンビニで買い物を済ませると、マンションのロビーへと向かった。そして、エレベーターに乗って7階まで上がり、土方さんの部屋の前に辿り着くと、先に私を中へ入れてくれた。

「お邪魔します…」

まだ少しふらつく私を玄関にゆっくり座らせると、土方さんは細長い廊下の明かりを点け、リビングの明かりを点け始めた。

そして、また支えられながら共にリビングへと向かい、ソファーの前まで来ると、素早く冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを手渡してくれた。

「あ、ありがとうございます」
「少し顔色も戻ってきたな」

そういい残し、リビングを後にした。

(シャワーの音がする。ということは、先に入っているということ…だよね)

何度か訪れたことのある3LDKのこのマンションは、一人暮らしにしては贅沢な造りでリビングキッチンはかなり広い。というか、ここしか知らないのだけど…

だから、土方さんには彼女がいる…なんて思ったこともあったけれど、私を泊めてくれるということは、いないということでいいんだよね?

それに、泊めてくれるってことは期待してもいいのかな?

お水を飲みながらしばらくソファーで寛いでいたが、外の夜景が気になり広いベランダに出てみる。夜景も綺麗だけど、真上に輝いている三日月はもっと綺麗に見えた。

「うわぁ、気がつかなかった」

三日月を見るのはとても久しぶりだった為、しばらく見上げていたけれど、どこか寂しいイメージのある三日月は、私の心をしんみりとさせた。

今、私は土方さんの部屋にいる。
これは紛れも無い事実なんだよね?

それでも、大好きな人に想われているのかどうかという不安は付きまとったままだった。

土方さんの下で働くようになってから、はや二年。
涼子たち同僚が出世していくなか、私だけはずっと同じ仕事を任されたまま。

土方さんのような優秀な社員になりたいと思っているのに、空回りばかりしている気がする。そんなことを考えながら、見上げ続けていた。刹那、

「ここにいたのか…」

背後から声がして思わず声を出して驚くと、黒いシルクバスローブを纏った土方さんがゆっくりと私に近づいて来ていた。

「夜景、綺麗だろ」
「はい、でもあの三日月のほうがもっと綺麗かなって…」

ドキドキしながらもそう答えると、土方さんはベランダの手すりにもたれ掛かり、同じように夜空を見上げた。

「確かに…」

ポツリと呟いた土方さんの、まだ濡れたままの髪は月明かりに照らされ、その端整な顔は思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。

「俺と同じもので悪いが」
「あ、ありがとうございます…」

白いバスローブを受け取ってリビングに戻り、下着を持ってバスルームへと向かった。

(…なんか…まだ信じられないな…)

シャワーを浴びながら、さっきの月明かりに照らされた土方さんを思い出し、勝手に胸を高鳴らせる。

土方さんも、私のことを想ってくれているのかな?
それとも、ただの慰め?
私、自惚れてもいいのかな…

シャワーを浴びながら自問自答し続けていた。




その後、土方さんの大きめなバスローブを羽織り、ドライヤーで髪を乾かしながら鏡に映る自分を見つめた。

(今夜、土方さんと……)

そう思っただけで、胸の鼓動は更に速まってゆく。


「…シャワーありがとうございました」

リビングに戻りソファーで寛いでいる土方さんに声をかける。土方さんは飲みかけのビールをテーブルに置いて立ち上がると、そっと私を抱き上げ歩き出した。

「えっ、あ…ちょっと土方さ…」

突然の出来事に思わず土方さんのうなじに手を回し、胸元のバスローブにしがみつく。

「ずっとお前を抱きたかった…」
「……う…そっ…」
「冗談でこんなことが言えるか」

連れて行かれた寝室にはダブルベッドと、小さなデスクだけが設置されていて、開けっ放しのドアから漏れる廊下のオレンジだけに照らされた寝室は、薄暗いままだった。

「これ以上は待てない…」

そう言うと、土方さんは私をそっとベッドに置いた。熱い視線を向けられたまま優しく押し倒され、両手首を掴まれながら見下ろされる。逆光でその表情は窺い知れない…

「何を考えている?」
「……いまだに信じられなくて…」
「…………」

しばらく、視線を逸らすと土方さんは再び私に向き直り静かに口を開いた。

「…俺は、こういう性格だから上手く気持ちを伝えることが出来ねぇが………あいつの店でお前を抱きしめた時、その場で押し倒して抱きたいと思うくらい、お前を意識していた…」
「土方…さん…」
「……だから、どれだけお前が大切なのかを教えてやる」

そう言うと、すぐに優しいキスをくれた。
それは、今まで感じたことの無い大人のキスだった。

それだけで身体中がとろけそうになり、自然と甘い声が漏れてしまう。

「んんっ…ふっ…」

頬に触れた大きな手の平。そのまま前髪をかき上げられ、耳元を擽り。優しいキスは、やがて激しさを増し、バスローブの腰紐をすっと解かれ、胸元がゆっくりと開かれ始める。

「んんっ…」

やっと長いキスから開放されると、その端整な唇が喉元から胸元へ滑っていき、やがて蕾を優しく擽られた。

「ああっ、んっ…いや…」
「こんなに感じているのにか」

何度も愛撫され、唇で刺激される度に素直に反応してしまう。自分の弱点がここにもあったのかと思ってしまうくらい乱れてしまっている。

土方さんに愛されているから?

「あ、そこは…」

気付かないうちに玩ばれていたことに気付き、既にほんのりと濡れてしまっているそこは、下着の横から直にその指を受け止めてしまっていた。

「あっ…ん……」

すでにほんのりと濡れ始めたそこは、その指を直に受け止めてしまっている。

「もう、こんなに濡れている…」

耳元で低く囁かれ、私は顔を背けて首を振った。

「…っ…」

やがて、ゆっくりとずらされた下着。改めて、指を受け入れてしまったことで身の奥に鈍い痺れが走った。同時に蕾を優しく吸われ始める。

指と舌の感触をいっぺんに受け、淫らな声が部屋中に響き渡った。

「…んっ…あああっ……」

自分の指先をくわえ込みながら、快感を我慢していた。その時、更に奥へと受け止めてしまった指のせいで、思わず土方さんのうなじに手を回し抱き寄せた。

(感じ過ぎる…こんなの初めて…)

「もう、い…いっ……」
「まだだ…」

耳元で悪戯っぽく囁かれ、バスローブを脱ぎ捨てる土方さんをぼんやりと見つめる。また覆い被さって来た土方さんを抱きしめ、首筋を這うように貪りあがってくる唇によって違った刺激を受け止めた。

「…いいか」

こちらを見下ろす土方さんのうなじに手を回したまま、私は小さく頷き。次の瞬間、それを受け入れた。

「んっ……ああっ…はぁぁあ…」

時々、漏れ聞こえる土方さんの掠れたような吐息も手伝って、もうこれだけで果ててしまいそうになっている。

「土方さん……好きです…」

恥ずかしいと思っていながらも、律動に合わせて淫らな声を上げてしまう。こんなにも感じているのは、やっぱり大好きな土方さんだからだろうか。

お互いにこれ以上ないほど抱きしめ合い、温もりを感じ合う。

私は最後まで、土方さんの腕の中でその優しい抱擁を感じていた。




「…す、凄過ぎです」
「何が」
「て、テクニックが…」
「…あほか」

私の隣、肘枕をしながらこちらを見下ろしている土方さんの、呆れたような瞳と目が合う。

「これからも、ずっと土方さんの隣にいてもいいんですか?」

躊躇いがちに言う私に、土方さんはふっと鼻で笑うと、「ああ」と、囁いてくれた。それと同時に、優しく髪を撫でられ、私はそっと広い胸に顔を埋めた。

ずっと傍にいられる。
土方さんの隣に。

「あ、でも…土方さんの彼女になったら…苦労が耐えなさそう…」
「……それは覚悟しておけ」

(…やっぱりなぁ……)

当然だろ。とでも言いたげな土方さんに苦笑いを返し、私はこれからのことを思い描いていた。土方さんみたいにはなれないけれど、この人と一緒に成長していきたい。そして、この人の為に女を磨きたい。

素直にそう思えたのだった。


【第4話へ続く】


お粗末様でした(⊃∀`* )

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