□一発一発が重い一撃
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今日親は居ない、暗がりの二人きりの帰り道でそう告げられて私の心臓がとびきり跳ねた。
今日、今から私は源田のお家にお泊まりをする。先程部活が終わり、明日も午前から部活があるのでそんなにゆっくりは出来ないけれど帝国は休みが少ないから仕方ない。泊まりにいくと決まった時からすごくドキドキしていたけどさっきの源田の言葉で余計に緊張してきた。待って欲しい…。そんな漫画みたいなご都合展開があっていいのか…?いや、でも明日も練習あるしあの源田くんだしそんな事あるわけ……。
うん、うん。だってキスですらまだ片手で足りるくらいしかやってないし、実に中学生らしい交際をしてる私たちがそんな急に。
『…ねぇ?』
「どうした?」
『ううん、なんでもない。』
テンパりすぎて独り言が口から出ていた。
『親御さん居ない方が変な緊張しないからちょっと助かったかな…』
はい嘘〜。めちゃくちゃ緊張してます〜。…いやいやでも親御さん居ても居なくても種類の違う緊張感があるよね。どっちにしてもとてもドキドキしてます私。
「別にリラックスしてくれればいい、緊張する事じゃない」
『無理無理。じゃあもし私の家に泊まりに来て親が居たら?』
「………それはまた話が別だろう」
『一緒だよ、同じくらい私も緊張するの』
そう言うと源田はあまり納得のいかない表情でそうか、と頷いた。


『お邪魔します…』
靴を脱いで玄関を見渡してるとこっちだ、とリビング・ダイニングまで案内された。源田の家めっちゃ綺麗で広い…。生活感あるんだけどない、みたいな。うちも見習わないとな。
ふと、キッチン前にある机をみるとラップが掛けられた美味しそうな食事があった。
「…あぁ、母さんが温めて食べてくれって作っていった」
これを!?つくった!?源田のお母様お料理上手なんだ…。並べてあるのはハンバーグだけれども家庭で作ったとは思えない見栄えである。これは私料理練習しないとやばい。
私が呆気に取られていると源田が電子レンジで食事を温め始めた。
「ナマエ、手洗い」
『あ、うん』
2人で仲良く手を洗って温めたご飯(家庭の味とは思えない美味しさだった)を食べて2人仲良く食器を洗って、ベタだけど新婚かよと心中でひとりツッコんだ。ニヤけた顔を元に戻そうとほっぺを引っ張っていると源田に不思議な顔をされた。
「ナマエ?」
『え、ああ何?』
「先に風呂入ってくれ。俺は後でいいから」
なんかすごい台詞……。というかそうでした、同じお風呂に入るんでした。いやさすがにそれは恥ずかしいよね!?え!?シャワーだけでいいのに…でもせっかく掃除してお湯沸かしてくれてるのに失礼だよね。
『あの、お風呂……私が入った、あとに、入るの…嫌だったら源田先に入っていいからね?ていうかそっちがいいな』
「?」
『ほら、私部活で外に出たしなんていうか……汚い、じゃん?』
いやこの言い訳は自分でもどうかと思う。センスがない。
「俺だって部活したぞ?」
だよね。
「というかそれなら汗かいてる俺の方が汚い。」
いやいや源田の汗なんて全然汚くないから。
「それにナマエが汚い訳ないだろ」
あ〜〜〜〜〜〜そういうとこだぞほんとに〜〜〜〜。そんな事言われたら先に入るしかないじゃないか。ずるいなぁ源田。ほんとずるい好き。
結局私が先にお風呂に入る事になって、下着やら何やらを持ってお風呂場(脱衣所)に行くと廊下の方から源田に呼ばれた。
「これ使ってくれ」
そう言って手渡されたのは黒のスウェット上下。
「ちゃんと洗ってあるから安心していい」
え??あの、もしかしてこれって…源田の……。
固まっていると頭上から申し訳なさそうに俺のですまないが、と聞こえてきたので慌てて首を横に振った。それはもう首が飛んでいく勢いで。
『違う違う!!違う、そうじゃないからね!そうじゃなくて、びっくりして…』
「びっくり?」
「いや、まさか源田の物を貸してくれるなんて思わなくて…」
てっきりお母様のものを貸すのかなって勝手に思っていた。そう伝えると源田は少し恥ずかしそうに笑った。
「最初はそうしようかと思ったんだが……ナマエには俺のを着て欲しかったんだ」
俺のを着て欲し……!?!?き、着ますけど!?そんな顔してそんな事言わないで下さい源田さん!!
『精一杯身を清めて着用させて頂きます……』
「?いつも通りでいいぞ」
脱衣所に戻った私は素早く衣服を脱ぎ、持ってきていたバッグに詰めてお風呂場へと入る。
広い空間に圧倒されつつもいつもより入念に体や髪を洗い、きちんと洗顔もして気合を入れてゆっくりお風呂に浸かるのだった。あぁ…どうせなら源田の後に入りたかった。
今日の源田の攻撃力が高すぎて私じゃ防御しきれないな。怖いあの人。なんであんなことサラッと言えちゃうの…?嬉しいんだけどHPが足りない。
お風呂から上がり、ドキドキしながら源田のスウェットを着たけれど、着る前よりも着た後の方がずっとドキドキした。源田の匂いがする!!常に私の鼻に入ってくる!!あの大好きな匂いが!!
『な、なにこれ……』
これはすごいな……彼氏の服を着るってこんなにすごいんだ。興奮で語彙力が無くなった私はくんくんとスウェットからする源田の匂いを嗅ぎながら目を閉じて浸る。
『………………………』
……………って、そうだった。この後は源田がお風呂入るんだから早くここ退かないとだよね。
1度深呼吸をして心を落ち着かせてから脱衣所を出る。リビングに戻ると、私を見た源田が何故か控えめに笑った。
『え、なに!?なんかおかしかった!?』
前後ろ逆に着てしまったのかと慌てて確認するけれどそんなことはなかった。なんだ何もないじゃん。ホッと胸をなでおろしていると頭に大きくて温かい感触。え……手……!?手を置いて!?
「やっぱり少し大きかったな」
そう言って源田は私の頭に置いていた手をゆっくり移動させて髪を梳いていく。な、なな何が起きてるの!?状況を整理しようとした私の耳に入ってきたのは最大級の攻撃。
「ナマエは小さくてかわいいな」
『!!!!!!』
声にならない叫びを上げて私のHPがゼロになる。あまりにもずるいではないか。油断していたところを攻撃してくるなんて。さすが帝国。こわい。私が小さいんじゃなくて源田が大っきいんだよ。というか今日はいつもよりこういうのが多い気がする。どうしたんだろうか。心臓持ちませんよ。
その場から動けないでいると源田は風呂に入ってくるとリビングを出ていった。瀕死状態の私は源田がさっき言ったことを何度も脳内再生する。あんなに自然にかわいいとか言える中学生いる訳ないじゃん。何なの。もしかして源田は二十歳過ぎてるの?女子中学生には大きすぎるダメージ。
「ナマエ」
急に名前を呼ばれて肩が跳ねる。とてもびっくりした。腰抜けるかと思った。
「これ使ってくれ。湯冷めするだろ?」
渡されたのはブランケットだった。
『ありがとう…』
お礼を言ってブランケットを受け取ると源田はまた脱衣所へと向かった。
え、何?お母さん?源田くんはお母さんなの?あ、いやお母さんでもわざわざ手渡してこない。少なくとも私の家は。どうしよう。これは自惚れてもいいぐらい大事にされている。
そう気づいたら胸の奥がきゅうぅと締まってどうしようもない。
『はぁ〜〜〜すき………』
そう呟いてブランケットを抱きしめた。これも源田の匂いがする。






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きっと源田も緊張してたし
テンション上がってた。
続きは気が向いたら。


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