□何でも素直に答えるの良くない
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『佐曽塚、お願いがある…』
両手を合わせてそう頼むと彼はくるりとこちらを振り返った。
「水神矢のことだろー?」
そう言ってニヤリと口元を緩めた佐曽塚。いや口元緩いのはいつもか。
『そう、なんだけど…あのさ、』
好きな人がいるかそれとなく聞いてほしい、そう言う前に佐曽塚は分かってる任せて、と上機嫌で言って去っていった。え……本当に分かってるの…??すごい嫌な予感してきた。

その日の放課後、部活の時間。練習場には私と佐曽塚、そして私が想いを寄せる水神矢の3人だけが来ていた。だめだ、この空気危ない気がしてならない。そっと離れようと足を踏み出したその時、佐曽塚が水神矢に問う。
「サッカーすき?」
そんな事を言いながら背を向けていた私の腕を掴んでくるっと3人で円を作って向き合う形にする。まって何で向き合う必要あるんですか…。
ちらっと水神矢の方を見ると先程された質問の意図がよく分かっておらず頭にハテナを浮かべていた。
「どうしたんだ、急に。もちろん好きだぞ」
訳の分からない質問にきちんと答える水神矢。続いて佐曽塚は質問をしていった。
「犬はすき?」
「ああ、すきだぞ」
「猫は?」
「猫もすきだ」
この流れ………なんか読めたぞ…。だめだ逃げよう。その場を離れようとしたけれどグッと腕を引っ張られて引き戻される。なんて力だこのトゲトゲ頭め。キッと睨めばいつも通りの緩い笑みで返される。腹立つな。
「じゃあ俺は?」
「?すきだぞ」
嫌だ嫌だ逃げたい嫌だ。
「ミョウジのことは?」
そう佐曽塚が言う。耳を塞ぎたかった。この流れでいくと好きじゃないとか言えないじゃないか。そんなお世辞みたいな感じで好きだなんて言って貰いたい訳じゃない。
「ミョウジのこと……」
あんまり聞きたくなくて下を向いた。私はちゃんとした真面目な気持ちで本当に好きだって思って貰いたくて……こんな上辺だけみたいな言葉なんか…。ちゃんと本心で……。
「好きだ」
水神矢の口から零れるように出たその言葉にときめいて仕方がなかった。お世辞だって分かってるし、同じ仲間としてって意味かもしれない。そう思うけれどやっぱり好きな人からその言葉を言って貰えるだけで胸がドキドキと忙しなく高鳴る。
なぜか沈黙が続いたのでそっと顔を上げて見ることにした。佐曽塚がやり出したんだから何か言ってほしいんだけど………。
『…え、』
顔を上げてびっくりした。体が小さく揺れてしまうくらいに心臓がドキッと跳ねた。勘違いしてしまう。
「ミョウジ……」
水神矢は熱っぽい視線でこちらを見ていて、目が合えば優しく私に笑いかけた。頬も僅かに紅潮している。
こんな表情を向けられて気付かないほど私は鈍感ではない。だけど信じられなかった。そんな夢みたいな…。
『あの……』
「好きだ、ミョウジ」
しっかりと目を見てそう言われれば私の限界値は振り切れてしまって収集がつかない。大変な事態だ。耐えられない、この空気に耐えられない!!
佐曽塚の方を見れば彼はそこにはもうおらず私は絶句した。裏切り者…!!
『あの、私……も……えっと…』
………言えない!!勇気が足りない!!バカヤロウ私のバカヤロウ…!!
そうこうしている内に部員が増えてきて完全に返事をするタイミングを無くした。
『あ、ああ後で…!!!!』
そう叫んで私はとりあえず女子トイレへとダッシュした。
「俺の作ったチャンス無駄にした…」
すれ違いざまに佐曽塚がそう言ってきたので後で背後から肩パンしてやろうと誓った。チャンスを作ってくれるならもっと時と場所を選べ。
練習の前からとても疲れたし、今日これから返事をしなければいけないという事を考えてしまって顔を紅くし、その場に力なく座り込んだ。あーー……ここトイレじゃん座ってしまった……はぁ。



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