□ずるい
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日も落ちかけている時刻。私は校門の前で1人、彼を待っていた。
さっきサッカー部終わったから早くても後5分以上は掛かるかな。私は校門に寄りかかりメッセージアプリを開いて友達から来たメッセージに返信をする。
でも優しい貴志部くんの事だから急いで来てくれそうだなぁ。そんな事を思っていると小走りしてるような足音が聞こえてきた。
お待たせしました、少し息が上がってそう言う彼の方をみるとやはり急いで来てくれたみたいだ。
『急がなくて良かったのに』
さっき来たばっかだよ、言えば何言ってるんですかと返ってきた。
「彼氏としてナマエさんをこんな所で1人で待たせるなんて…」
『……』
そんな事さらっと言える貴志部くんかっこいいなほんと。私の彼氏かっこいい。
歩き出すと私の歩幅に合わせてくれるとこもかっこいいんだよなぁ。
『そういうとこ好き…』
「え…!?」
貴志部くんの歩みが止まったので私も止まる。
「なんですか…いきなり」
頬をピンクに染めて驚いた様子の貴志部くんに私は嬉しくなる。
『フッフッフ…いつものお返し!』
いつも私ばっかり急な攻撃受けて1人でワタワタしてるから今度はこっちからしかけてやったのだ。
「お返し?…なんかよく分からないですけどナマエさんが楽しそうで良かったです」
眩しい!目の前にある笑顔に目が眩んでいるとあの、と遠慮がちな声が聞こえた。
見ると、貴志部くんが少し上目遣いでこちらを見ていた。
「ナマエさん、そろそろ俺のこと名前で呼んでくれまんか?」
来た、この話題。いつか言われるだろうとは思っていたけど…。
前に1度お願いされたけれど恥ずかしすぎて呼べずに終わっていた。ずっと貴志部くんって呼んでいたのに今更下の名前呼ぶなんて恥ずかしすぎるし難易度が高い。
『いやでも…まだ心の準備が……』
「オレ、結構待ちましたよ?」
そうだよねそうだよね。あれから半年近く経ってるもんね…ほんとすみません。
私の瞳を真っ直ぐ見つめてくるサックスブルーの瞳の強さに観念して、静かに深呼吸をする。心臓がドキドキとしていて口から飛び出そうだ。
『……大河、くん…』
意を決してそう呼ぶと彼は見たことも無いような優しい顔で穏やかにはにかんでいた。
ひえっ何その顔。自分の体温がぐん、と上昇するのが分かった。
「はい、何ですかナマエさん」
『ちょっと待って!そんな顔するなんてずるいじゃん…!』
聞いてない、そう訴えれば貴志部くんは軽く笑った。
「ナマエさんが俺の名前を呼ぶ時にあんな表情するなんて俺だって聞いてない」
おあいこです、なんて言って楽しそうにしている貴志部くんに私は完全に負けたのだった。その返しはずるくない!?この子には勝てる気がしないよ。
ちくしょう……私の彼氏かっこいい。




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