□先輩のせいだ。
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※「かみなりおちた」続編




「おはよう」
次の日、また下駄箱で会った基山先輩は変わらずいつも通りだった。
そりゃそうか。あの光景をみてショック受けてたのなんて私だけなんだし。
『おはようございます』
「……なんだか元気がないね」
『そうですか?そんな事ないとおもうんですけど』
笑ってそう答えるとじっと基山先輩の瞳がこちらを見つめた。
やばい、いま目が合ったら泣いてしまいそうだ。私は咄嗟に目線を下にずらした。
「……ナマエちゃん、今日お昼一緒に食べよう」
『え?』
まさかの誘いにいきなりの事で頭が追いつかない。お昼?私と基山先輩が一緒に……。
「話したいことがあるんだ。それじゃお昼休みにね」
私が答えを出す前に先輩はそう言って自分のクラスへと行ってしまった。
話したいことって…もしかして八神先輩の事なんだろうか。そうだよね、二人きりなんてあるはずない。きっと八神先輩とお付き合いする事になったから紹介するんだ。そうじゃなきゃ先輩が私をお昼に誘うなんて…。
泣きそうになったのをぐっと堪えて教室へと歩いた。


授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教室内はざわざわとし始める。
屋上へ行こうと席を立つと緑川くんがやってきた。
「ミョウジさん、大丈夫?」
『うん、だいぶ気持ち楽になったよ。緑川くんのおかげで』
そう言えば、緑川くんは俺なにも出来てないよ、と苦笑した。
「目、腫れてるね」
一目見て分かるくらいに酷いんだ…やっぱり。てことは朝に基山先輩に会った時もバレてたかなぁ。
『まぁあれだけ泣いたらね』
そう言って昨日を思い出して恥ずかしさを誤魔化すために笑っているとナマエちゃん、と廊下の方から名前を呼ばれた。
『え…』
この声って…。
見ると、基山先輩が居る。確かにあれは先輩だ。なんでここに。
おいで、と手招きをされたのでクラス中の視線を浴びる中、緑川くんに背中を押された。
「ミョウジさん、大丈夫だから」
いってらっしゃい、笑顔でそう送り出された私は言葉の意味を理解出来ないまま、基山先輩の待つ廊下へと出た。
『基山先輩…わざわざ迎えに来て貰わなくても…。その…ありがとうございます』
「俺から誘ったんだから迎えに来るくらい当然だよ。気にしないで」
なんと紳士的だろうか。先輩のそういう所がかっこいいんだよなぁ。

屋上へ出ると風が気持ちよく、そして見あげれば晴れ渡る空が広がっていた。昨日の雨が嘘のように晴れている。今日は少し暑いくらいだ。
私と基山先輩は端のベンチに腰掛けた。ここで気づく、八神先輩が居ないことに。
あれ?なんで八神先輩居ないんだろ…。じゃあ私は何のために呼ばれた?
ふと隣に目を向けると基山先輩の真剣な瞳がこちらを見ていた。思わず見つめ返すけれど心臓がドキドキとするばかりで何も言えなかった。
少しの沈黙の後、基山先輩が言う。
「どうして、泣いてたの?」
予想もしない質問に一瞬頭の中にハテナが浮かんだけどハッとして腫れてる目のことだと気づき、下を向いた。
「緑川が昨日言ってたんだ、ナマエちゃんが泣いてたって。あと、目が腫れてるから…」
そういえば緑川くんと基山先輩は同じ施設で育ったらしく仲がいいんだった。口止めしとくべきだったかなぁと思いつつ、そもそもどうして私なんかが泣いてたことを緑川くんは先輩に伝える必要があるんだろうか。
『とくに理由は…』
「理由もなく泣いたの?何か悩み事?」
眉を下げてそう聞いてくる基山先輩。言える訳ない。先輩が好きだなんて……、だって先輩は。
「ナマエちゃん、顔を上げて」
ふるふると首を横に振って拒否するとお願い、と優しく先輩が言う。ずるいなぁそれ。基山先輩にそんな声でそんな事を言われていうこと聞かない人なんているだろうか。
ゆっくりと顔を上げると目の前には悲しそうな基山先輩の顔。
え、なんで先輩がそんな顔して…。
『先輩?』
呼びかけると悲しそうな顔のまま柔らかく笑う。
「デリカシーないこと聞くけど、好きな人に振られた…とか?」
どうして先輩がそんな辛そうな顔をするのか。私を泣かせたのは先輩なのに。
『…そうですね。振られたみたいなもんです。』
「知らなかったよ、君に好きな人が居たなんてさ…」
そう言えば先輩とそんな風な話はしたことがなかったな。しておけば良かったんだ、そうしたら変な期待をせずに済んだ。
『お互い様ですよ、先輩に好きな人がいたなんて私も知りませんでしたし』
そう言えばどうしてそれを、と明らかに動揺した声が聞こえた。
『私見かけたんです』
「見かけた?」
『昨日、基山先輩が八神先輩と相合傘して帰ってるとこ』
あの時の楽しそうな2人を思い出すだけでキューっと胸が締め付けられる。
お付き合いしてるんですよね、そう言おうとしたのを基山先輩が遮った。
「え、玲名!?…俺が、アイツと?」
驚いた様子の基山先輩の反応に違和感を覚えて違うんですか、と問う。
「違うよ、俺と玲名はそんなんじゃない」
『でも先輩の好きな人って八神先輩ですよね…!?』
聞けばもう一度違うよ、と笑顔で返ってきた。違った…、基山先輩は八神先輩と付き合ってなんかなかった。でもそれじゃ先輩の好きな人って…?
「……なんだかキミの好きな人、分かったかもしれない」
頬を赤くして言った先輩の言葉にドキッと心臓が跳ねた。バレてる何で!?
「ごめんね」
『?』
何に対して謝っているのか分からず少しの間考える。もしかしてこれは振られたのかな…?ごめんってそういう事だよね…?だって先輩、私の好きな人分かったって言ったもんね。
やっぱり私は恋愛対象には見られてなかったんだ、涙が溢れそうになるけれど先輩の前だからと唇を噛んで堪える。
もうこんな風に先輩とお話出来るのも最後かもしれない、そう思うと苦しくて苦しくて息が出来ない。
「すきだよ」
……はい?
『え…?』
幻聴かな?基山先輩から告白される幻聴が聴こえるなんて相当キてるな私。だってさっきごめんって言われたし。
「ナマエちゃんが好きなんだ」
今度はしっかりと聴こえた。
恐る恐る先輩の方を見ると、見たこともないくらい真面目な顔の先輩がこちらをじっと見つめていた。その顔はとても嘘をついている様には見えなかった。
『ごめんって……』
言ったじゃないですか、震える声で絞るように言えば基山先輩はふっと表情を和らげた。
「あれは…俺が泣かせたんだなって思って。だから、ごめん」
好きな子を泣かせるなんてダメだな、と基山先輩はため息を吐いた。
信じられない。基山先輩が私のことをすきだったなんて、そんな夢のようなことがあっていいのか。現実味の無さに自分の頬をひっぱたこうとしたけれど先輩に頭おかしい子だって思われるのは嫌だからやめた。
『先輩、……どうして私が先輩のこと好きだって、分かったんですか…?』
「玲名との仲を聞いてくるナマエちゃんの顔みてたらね……あ、って気づいた」
基山先輩がほんのり頬を染めて恥ずかしそうに笑う。わ、先輩もそんな顔するんだ。普段完璧な先輩の初めて見る表情に嬉しくなって思わず口元が緩む。
「ん、どうかした?」
俺の顔何かついてた、そう言いながら焦り気味で頬やおでこを触る基山先輩が可笑しくて私は声を上げて笑った。
『ふっ……アハハハ!先輩かわいい…!』
「かわ…!?もう…笑いすぎだよ、ナマエちゃん」
拗ねる先輩もかわいいなぁ。そんな事を思っていると不意に両腕を引かれて体がぐっと近づいた。
『へ……?』
「まだキミから聞いてないんだけど」
王子様のような完璧な微笑みを浮かべた基山先輩。さっきまで照れたり拗ねたりしていたかわいらしい先輩はどこへ行ってしまったのか。
基山先輩に、こんなに至近距離で微笑まれて見つめられて好きと言ってほしい、だなんて言われて一体どれだけの女子が耐えられるのだろうか。少なくとも私は無理、耐えられるわけがない。体温もだんだん上昇してきて熱い。
「真っ赤だね」
かわいい、そう零れるように先輩が呟いたのを聞いた瞬間私は先輩の手を振り払って走った。
『ずるいですっ……!!!!』
「え!?ナマエちゃん!?」
先輩が名前を呼ぶのも聞こえないフリをしてそのまま階段を駆け下りる。走ってるからなのか、基山先輩の言動のせいなのか分からないけれど、心臓が激しく脈を打っていて息が苦しい。暑い、熱い。先輩のせいだ。
どこに向かっているのか自分でも分からず校舎内を走る。途中で先生に軽く注意もされた。先輩のせいだ。
ふとお昼ご飯を屋上に置いてきてしまった事に気づく。ご飯食べれなかったのも先輩のせいだ。
私が昨日泣いたのも、今日こんなにドキドキしているのも、いまニヤけながら廊下を走っているのも、全部全部大好きな先輩のせいだ。




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カントリー・ガールズの
傘をさす先輩
聴いてみて下さい。

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