□もういっかい
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部活が終わり、私とアツヤは並んで帰る。
士郎くんとアツヤと帰り道が途中まで同じな私はいつも3人で一緒に帰っているが、今日は違うらしい。
『士郎くんは?』
「アニキは染岡さんと監督と部の事で話があるから先帰ってろってよ」
『そうなんだ。ねぇ』
手繋ごうよ、そう言って手を差し出すとバシッと叩かれた。痛い。
『え、なんで!?』
「人通り多いだろうが」
何だその理由は。
恥ずかしいのかと問えば、今度は肩を軽くグーパンされた。
「しりとり」
『え?』
急に何だと隣を見れば早くしろ、と目線で促される。
どうしていきなりしりとりなんだろ。
『りか』
「かがみ」
『みかん……あ、』
「はい、お前の負けな」
ニヤッとしてそう言うアツヤ。
私はもう一度、と人差し指を無言で立てた。それを見たアツヤが私の立てた人差し指をこれまた無言で折りたたんだ。
『ちょっと!いいじゃんもう1回!』
「どうせお前負けるぜ?」
『しりとり!』
声を張って無理やりスタートさせるとはいはい、とアツヤはゲームを続けてくれた。
「りかしつ」
『つくえ』
「えいが」
『がめん…あ…』
バッと隣を向くとニヤニヤしているアツヤがいた。
「ほらな言った通りまたナマエの負け」
くぅぅ……腹立つなその得意顔。
『私反射神経がいいから』
言い訳をしたつもりが訳の分からないことを言ってしまい、アツヤもはぁ?と小首を傾げた。ほんと何言ってんだ。
「じゃお前負けたんだしなんか奢れよ」
『え!?』
「当たり前だろ?勝負に負けたんだからよ」
勝負なんて言ってないと噛み付けば、今言ったと満面の笑みで返された。
『その顔ズルくない…?』
「あ?なにが」
ズルいよそんな顔して!アツヤの笑顔に弱いんだよ私。やめてくれ。
分かれ道に到着してどちらも自然に歩みを止める。
『仕方ない…明日奢るから何がいいか決めといてね』
また明日、そう言うけれど返事が返ってこないので振り向くと、アツヤは黙って少し俯いていた。
どうしたの、と1歩近づくとグイッと体を引っ張られて気づいた時にはアツヤの腕の中に居た。
え、なに?どういう状況?
何が起こっているのか理解出来ずにいると耳元から掠れた声で好きだ、と聞こえた。瞬間、顔がカッと熱くなる。
あまりにも突然の事で身動き取れないでいるとパッと私から離れたアツヤがじゃあな、と走って帰っていってしまった。
『なに今の……』
あのアツヤが好きだって…。普段そんなことなかなか言ってくれないのに。
夢じゃないのかと自分の頬を思い切り抓るけれどただただ痛いだけだった。
『もう1回聞きたいな……』
道端でニヤニヤしている自分は傍から見れば相当危ないかもしれない。
そうは思いつつも抑えることが出来ずにそのまま家へと歩き出した。




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