□ムカつく
1ページ/1ページ


朝の6時20分。
あたしは目の前のドアを見つめる。
アースイレブンの起床時間は6時。
その時間になっても起きてこない選手はマネージャーが起こしに行くことになっている。
今回、その役を任されたのがあたしだ。
しかしなんであたしがこいつの部屋にわざわざ起こしに来てやらくちゃいけないのか。
なんてことマネージャーやってる以上は言えないのでゆっくり息を吐いて自分を落ち着かせる。
葵ちゃんにあんなかわいく頼まれたら断れないもんな。
コンコン、とノックをしても返事がないところをみるときっとこの部屋で寝ている奴は今もぐっすりなんだろう。
あたしはわざとバンと音を立てて部屋の中に入る。
そこでは気持ちよさそうな寝息を立てて井吹が寝ていた。
その寝顔にちょっとイラっとしたあたしは井吹の耳を引っ張ってやった。
すると、さっきまで大の字で寝ていた奴がガバッと起き上がる。
「な、なんだ!?・・・ってお前・・・!」
井吹はあたしを見つけるなり眉間に皺を寄せた。
『さっさと起きなさいよ!もうアンタ以外の人たちはみんな起きてるんだからね。起こしに来てやったんだから感謝してよね』
「マネージャーなんだから当たり前のことじゃねぇのかよ」
『アンタあたしたちマネージャーを何だと思ってんの!?』
「あたしたちってなんだよ、俺が言ってんのはお前だけだけどな。」
そう言ってバカにしたように井吹が笑う。
ほんっとムカつく!!
『起こしてやったんだから素直に礼くらい言え!』
あたしはその辺にあった枕を井吹の顔面に投げて部屋を出た。




イライラがおさまらないまま食堂に行くとキャプテンが声をかけてくれた。
「何かあったの?」
あたしの不機嫌な顔を見た瞬木がどうせ井吹だろ、と呆れた。
続けてキャプテンが言う。
「二人が仲悪いのは分かるけどさ、マネージャーでも選手でも同じチームメイトなんだからもう少し仲良くしようよ」
そうキャプテンに優しく諭されて短くうん、と答える。
分かってる。分かってるけど。
何か好きになれないっていうか、アイツ口悪いし、目つき悪いし。
あたしが井吹のこと気に入らないのは神童につっかかったりしていたからで。
あたしと神童は幼馴染みで、だからあたしもアイツにつっかかって。
でも、もう神童と井吹も和解したからあたしもアイツにつっかからないようにしようって思うんだけど何か駄目で結局言い争いが絶えない。

朝食を取り、席に着くと近くに井吹が座った。
『ちょっと、何でそこに座ったの..』
「ここしか空いてなかったんだよ」
『アンタが早く起きないからでしょ』
あたし達の嫌悪なムードに周りのさくらちゃんや真名部がハラハラした表情で見ていた。
「オイ、」
あたしが目玉焼きを口に運ぶとそれを見ていた井吹がそれを呼び止めた。
「何で何もつけてねぇんだよ」
『は?』
「目玉焼きには醤油かけんのが常識だろうが」
何なんだその常識は。
醤油かけるとかかけないとかそんなの人の勝手だし好みでしょ、私がそう言うと井吹もまた言い返してきた。
「かけた方が美味いだろ」
『残念。私は絶対かけません』
「かけろ」
『やだ』
「かけろ!」
『やだ!』
そんなやりとりをしながら井吹が私の目玉焼きに醤油をかけようとしてきたのでその腕を掴んで制す。
「手をどけろ!」
『嫌だー!』
「 ナマエ !井吹!」
大声で名前を呼ばれてびっくりした私たちは動きが止まる。
聞こえた声の方を向くと、神童が怖い顔をしてこちらを見ていた。
やばい。これはやばい。
井吹の方をチラリと見ると、井吹も青い顔していた。
「お前たち、皆の迷惑になっているのが分からないのか!
食事くらい静かに出来ないのか」
『はい...。』
怒られた。
井吹を睨むとあっちも私を睨んでいた。
何でアンタが私のこと睨んでんのよ...!
もうほんとムカつく!!









練習後、夕飯を食べてお風呂に入った後、神童に呼ばれていた私は部屋へ行こうと廊下を歩いていた。
すると、向こうから井吹が来た。
「...邪魔だ、ど真ん中を歩くな」
『それはこっちの台詞なんですけど!?
今から神童の部屋に行くんだから邪魔しないでよね』
「神童...?」
何の用だよ。
アンタには関係ない。
いきなり視界が暗くなって上を見上げると井吹の顔が近くにあった。
なに?この体勢....。
井吹は壁に手をついて私に覆い被さる様にして立っていた。
そんな井吹の表情が何故か不機嫌。
「神童がお前を呼んだのか?」
『そうだけど。っていうか退いてよ』
神童が待ってるんだから、言うとますます井吹の顔が曇った。
「絶対に退かねぇ」
『何でそんな....!』
「お前、神童のこと好きなのかよ...」
何を言い出すんだ。
神童のことは確かに好きだ。でもそれは恋愛感情じゃなくて幼馴染みとして、好き。
そう伝えると本当か、としつこいくらいに聞いてきた。
『...何が言いたい訳?』
問うと、先程よりも距離を縮めた井吹の真剣な瞳と目が合った。
悔しいけどかっこいい。
私の心臓がトクンとなる。
「お前と神童が仲良さげにしているとムカつくんだよ」
『それ、嫉妬?』
「かもな」
どっちに、呟いた声に井吹は神童、と答えた。
それって、そんなのって...。
つまりは...。
『...好き、なの?私のこと...』
「かもな」
私から目をそらさない井吹に心臓が今度はドキドキし始める。
かもな?かもなって事は、井吹は私のこと好きかも....ってことなの...?
え、でもそんな素振り少しもなかったし...。
むしろ嫌ってるかと思ってたのに。
混乱する私の腕を井吹は掴んだ。
「行くなよ」
『え、ちょっとはな...んぅ.....』
離して、言う前に井吹は強引に唇を塞いだ。
『やめてよ....!!』
私はすぐに井吹を突き飛ばしてその場から走って逃げた。
その勢いのまま自分の部屋に入りベッドにダイブする。
『..............』
やっぱりアイツムカつく。訳わかんない。
何であんなこと...。
でも、嫌じゃなかった....かもしれない。
ああもう。
はっきりしない自分もムカつく。






------------------------------------------

お題は姉からで【壁ドン】だったんですけど私には技術が足りなくて上手く書けませんでした。




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ