□あめのひ
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季節は春。
4月になり気温も随分暖かくなった。
しかし、今日の天気は生憎の雨である。昨日まで春らしい気温だったのに今日は震えるくらい寒い。
雨のせいで今朝ヘアーアイロンをしたはずの髪も少しだけうねっていてテンションも上がらない。あんなに頑張って寝癖直したのに。雨なんか嫌いだ。
はぁ、とため息をひとつ吐くと幸せ逃げちゃうよ、と頭上で声がした。
見上げると先ほど登校してきたばかりと思われる雨宮太陽くんが私の席の側に立っていた。
太陽くんは名前の通り太陽みたいな人で顔よし頭よし性格よし、おまけにサッカーも10年に1人の逸材と言われるほど上手く、1年生にして新雲学園サッカー部のキャプテンを務めている。
女の子からの人気も高いそんな彼は私の、私の彼氏だ。
『おはよう、太陽くん』
「おはよう、 ナマエ。どうしたの?ため息なんかついて」
『雨が降ってるから…』
髪がうねっちゃってさ、言えばクスッと笑われた。
『酷いよ太陽くん、こっちは真剣なのに』
「そんなこと気にしなくてもいいじゃないか」
『女の子は気にするの!』
そう主張すると優しく髪を撫でられた。突然の行動に驚いて慌てて周囲を確認する。…どうやらまだ誰も来ていないみたい。助かった…。こんなところを太陽くんに想いを寄せてる子たちがみたらどんな目線を向けられるか分かったもんじゃない。
「でもさ、この髪型もかわいいと思うよ」
なんてことを言うんだ。
太陽くんは時々こういう風にさらっと恥ずかしいことを言うから困る。
私が照れて固まっているとでも僕も雨嫌いなんだ、と苦笑した。
そんな太陽くんの視線の先を追えばどうして雨が嫌いなのかすぐ分かった。
「....サッカーが出来ないからね」
太陽くんは雨でびちゃびちゃになったグラウンドを見つめてそう言った。私も同じように窓から見えるグラウンドを見つめる。
すると、隣から小さくはぁ、とため息が聞こえた。
幸せ逃げちゃうよ、今度は私が太陽くんに言えば彼はそうだね、と笑いかけてくれた。







放課後、いつもは外でサッカーをするのだけど今日は朝から雨がずっと降っている為に軽い筋トレだけで練習が終了した。
練習中、というか私はマネージャーだから見てるだけだったんだけど、だからこそというか、とても寒かった。
筋トレをしている皆は頬をピンク色にして「暑い」と口にしていたけど。皆が着替えに部室に入っていくのを見て
、私も寒いから急いで部室に行って着替える。
女子更衣室でジャージから制服に着替えた私はしばらくスマホで暇潰しをして太陽くんにメールを作成する。
【着替え終わったんだけど、太陽くんはどう?】
そう打って送信するとすぐに返信が来た。
【俺も終わったよ。今からこっちに来れる?もうだいぶ人居ないし】
行く、そう一言だけ返した私は荷物を持って寒い外に出ると、息をする度に白いもやもやが出るくらいに外は寒くなっていた。さっむい……早く行こう。
太陽くんの待つ部室へと小走りで向かった。


部室のドアを開けるとそこには太陽くんと佐田くんがベンチに座って話をしていた。
私が来たことに気づいた佐田くんがそれじゃあ、と部室を出ていってしまう。佐田くんってば気を使ってくれたのかな。
太陽くんの隣に座るといきなり顔を覗き込まれた。びっくりして何、と問う。
「寒かった?」
『うん。』
「おいで?」
そう言って両腕を軽く広げて微笑む太陽くんの胸に遠慮がちに飛び込む。恥ずかしい、けど暖かい。
ぎゅうぎゅうと背中に回された腕に力が籠る。
太陽くんの制服のベストからは私の大好きな太陽くんの匂いがしてなんだかとても安心した。
身体を包む温もりと匂いに満たされる。
『...太陽くん、暖いよ』
「僕も」
不意に ナマエ、と名前を呼ばれて顔を上げると額にチュッと軽くキスをされた。
それに赤面する暇もなく瞼、目尻、頬、唇とキスの雨を降らす。
『.......あの、』
恥ずかしい、そう呟けば目の前の太陽くんの顔が綻んだ。
「 ナマエがかわいすぎるのがいけないんだよ?」
かわいくないよ。そう言えば、太陽くんはまたぎゅうと私を抱き締めた。落ち着くなぁ。
『私ね、太陽くんの体温好き。暖かくて...落ち着くの』
「あぁもう、だからそれが........」
途中まで何か言いかけた太陽くんは困った笑顔を私に向けて頭を優しく撫でた後にくしゃっと混ぜた。
「さ、帰ろうか。」
部室の外に出るともう随分雨も弱まっていて、雲の間からは晴れ間が見えていた。
『明日は晴れるといいね』
「晴れるよ、きっと。」
サッカーだって出来るし ナマエの寝癖だって直るさ、晴れ間を見てそう言う太陽くんの笑顔はまさしく太陽だった。これは間違いなく晴天だ。


明日の天気は晴れ。




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