□事故が起きました。
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「大丈夫ですよ!」
と春奈ちゃん。
「似合ってると思うよ…!」
と秋ちゃん。
「心配ないです」
と冬花ちゃん。
そんなこと言ってるけど3人共その微妙な顔やめてよ。大丈夫じゃないでしょ、絶対…!顔に出てるからね!?
『...ほんとう?』
3人をじとっと見つめると苦笑いをされた。やっぱり変なんじゃないか!
そりゃあ居眠りしちゃったあたしが悪いと思うけど…!
もうちょっと上手に嘘ついてくれてもいいじゃないか!
って言ってもこの子たちは正直者だしねぇ。
「あ、 ナマエさん。この後あの人と会う約束してるんですよね!?」
『そうだけど…』
「ほら、早く行かないときっと待ってますよ」
『うーん…』
確かに会う約束はしてる。でも、でもこの姿はちょっと恥ずかしいと思うんだ!!会いに行きたくないしばらく顔を合わせたくない。
渋っていると正直者の3人娘から早く行け、と言うように急かされた。ので、覚悟を決めて目的の部屋まで歩みを進める。
そうだよ。自分から言わなきゃいいんだ…!いつも通りにしておけば誤魔化せるかもしれない。名案だ。
そんなことを考えていると、目の前から佐久間が歩いてきた。
あたしは何も言われませんように、と願いながら歩く。
『......。』
「.........プッ」
すれ違った瞬間、佐久間の吹き出すような笑いが聞こえた。
佐久間テメェ、覚えてろよ。






ドアをノックするとはい、と声がしたので遠慮なく部屋の中へとはいる。
そこにはベッドに腰を掛けてサッカー雑誌を読んでいるヒロトがいた。そんななんて事ない姿でさえかっこいい。
「遅かったね、 ナマエ」
『あぁ…うん』
……あれ?もしかしてヒロト気づいてない?あたしのこんなに変わった姿に気がついていない?
ふつう彼氏だったら彼女の些細な変化に気づくもんじゃないの?
いや、でもこの変化の場合は知られたくない気もする。
「そんなとこに立ってないでおいで、 ナマエ」
ヒロトが自分の隣をぽんぽんと叩いた。
それに従い、あたしもヒロトの隣に腰を掛ける。それからあたし達はいつものように談笑を始めた。


「そうだったんだね」
『うん、秋ちゃんらしいよね!』
「....ねぇ、」
『ん?』
その、とヒロトが遠慮がちに言う。
「前髪…やけに短くなったね?」
『..........。』
なんてこったい。忘れていたのに。
やり過ごせると思ったていたのに…!
まさか忘れた頃に指摘してくるとは。
誤魔化せてると思っていた分ダメージでかいよ。というか恥ずかしいよ、今更つっこまれると。
『…切るって言ってたじゃん?』
「そうだけど。オレに言ってた長さよりも短かかったから…」
『そうですね』
「どうしたの?」
あたしの前髪(おでこかもしれない)を見つめるヒロトにこうなった経緯を話す。
『秋ちゃんに切ってもらってたんだけど、…うん、あたしがね、居眠りしちゃって……カクンってなった時に…事故、が起きまして……』
そう言うとヒロトはああ、と納得した。そして ナマエらしいね、と笑ってあたしの短い前髪を撫でてくれた。時々前髪を掻き分けるようにしてさらさらと。そんな風にされると普通に撫でられるより恥ずかしいよヒロトさん。
「かわいいよ、子供っぽくて」
『最後の一言は余計なんですけど…』
ちょっと拗ねて言ってみるとごめん、と優しく微笑みながらまた前髪を撫でれらた。
『……もう!この髪型けっこう恥ずかしいんだからね!』
あんまりからかわないでよ、そう言って手のひらで額を隠すと今度はクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「 ナマエ、 顔真っ赤」
『うるさい…!ヒロトがからかうから』
そう言うとヒロトが優しく言う。
「ごめんね。でも、本当にかわいいよ」
『〜〜〜〜っ!!』
もうダメだ…。この人に対抗出来ません。真っ直ぐ伝えてくるヒロトに耐えきれなくなったあたしは俯いて顔を隠すしか出来なかった。


ちょっとだけこの前髪でもいいかなって思えたかもしれない。
大好きなヒロトが褒めてくれるなら。





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