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□嘘つきな君のほんとう。
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明日はエイプリルフール。
隣の友達はどうやって皆を騙すか必死で考えている様だ。ひとりでぶつぶつ言っていて正直怖い。危ない人になっている。
『…そんなに必死になることなの?エイプリルフールって』
「あたしの場合は他の子と勝負してんのよ。どっちが友達を騙せるか」
何なんだその勝負。くだらないなぁ。
そんなことを思っていると友達はくるっと私の方を向いて思い出したように言った。
「あんたは?」
『は?』
「だから、何か嘘つかないの?例えばさ〜…」
好きな人に嫌いって言ってそのまま告白に持っていくとか、と私を見つめて友達は言う。
何だそのありきたりなパターンは。漫画の読みすぎ。ややこしいし実際そんな事する人居ないでしょ。
『ない。却下』
「えー! どうせなんだから瞬木くんに告白しちゃえばいいのに!」
なんてことを言うんだ。瞬木に嫌いって言ったら俺もなんて返ってくるに決まってる。しかも、それがエイプリルフールなんか関係なくて本心で。それならそんなことしないでいた方がいい。無駄に傷つくだけだし。

私と瞬木は仲がいい方だと思う。口喧嘩なんかはしょっちゅうだけど、気が合う。
同じクラスで席が隣で。私はあいつの本性を知っていて。あいつが弟のこと大切に思ってることも知っている。
知らないことも多いけど他の女子なんかより断然仲がいいと私は思っている。
性格は悪いし口も悪いけどたまに見せる優しいところも悪戯したときの無邪気な笑顔もいいところも悪いところも好き、になってしまった。
だけど、きっとあいつのことだから私が告白なんてしたら鼻で笑って無理、だなんて言われるに違いない。想像するだけで腹が立つ。
『...けど、まぁ嘘つくくらいはやってみるか』
あいつみたいに上手くつけるか分からないけど、いつもムカつくこと言われてるお返しだ。








次の日、クラスへ入ると自分の席で男子と話している瞬木がいた。
またあんな作り笑いしてる。貼り付けたような笑顔。
そんな笑顔も今日くらいは、エイプリルフールくらいは許されるのかもしれない。
私も瞬木の隣の自分の席へ行く。
「あ、おはよう。 ミョウジさん」
こちらにも作り笑いで挨拶をする瞬木に私も同じ表情で返す。
『おはよう、瞬木くん』
席に着くと、瞬木もさっきの男子との会話は終了したようだった。
「お前、なんだよさっきの顔」
下手くそな作り笑い、そう言う瞬木にあんたも同じだったじゃないかと告げると俺の方がもっと上手い、と変な対抗心を燃やされた。
『別にいいじゃん。作り笑いしたって。今日は嘘ついてもいい日なんだから』
「にしたってお前下手すぎ」
うるさい、言ってやればなぁ、とじっと見つめられた。何を言う気だ、と身構える。が、それは予想外な言葉だった。
「かわいい」
『ぇ......』
「....ぷっ。はははっ!何照れてんだよ」
『は......』
「今日何の日だよ。さっき言ってただろ」
そう言われて私は自分のアホさに気づいた。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!穴があったら入りたい…!
エイプリルフールなのに!自分でもさっき言ってたのにこいつの嘘にまんまと引っかかるなんて…!くそー!ちょっとでもときめいた自分ほんとアホすぎる…!
「 ナマエってほんと引っかかりやすいな! …あぁ、単に馬鹿なだけか」
『ち、違う!素直なだけ…!』
何が素直だよ、また瞬木は笑った。
見てろ!私だって嘘くらいつけるから!
『あ、ねぇ瞬木』
「ん?」
『なんかかっこよくなったね?』
はにかんで(もちろん演技)言ってやれば、お前もかわいくなってんじゃんと鼻で笑われた。鼻で笑うな、鼻で。


その後も学校が終わるまで私と瞬木の嘘つき合戦は続いた。



「お前、ついてくんなよ」
『そっちがついてきてるんでしょ』
今日は瞬木が部活が休みだったようで、帰り道が途中まで一緒な私たちは分かれ道のあるところまで一緒に下校していた。
『あんたそんなに私について来るなんてどんだけ私のこと嫌いなのよ』
「何言ってんだよ。お前のこと好きだし」
嫌いは好き、好きは嫌い。
エイプリルフールだから会話がとてもややこしいことになった。
これだけややこしくなっているからきっと瞬木も聞き流すはず。そう思って私は本音を口にしてみた。
『好き……』
「俺も」
呟いた後に聞こえていたのかと恥ずかしさが込み上げてきて顔に熱が一気に集中した。なんで聞こえてんの…!
でもやっぱり軽く受け流されたところをみると瞬木は嘘だと思っている様子。
「 ナマエ…?」
歩みを止めて俯く私の名前を瞬木は呼んだ。
「無視かよ……っ!?」
覗き込んで私の顔を見た瞬木が驚いた顔をした。どうしよう。私いま絶対真っ赤だ。くそ、見るんじゃない。ふいっと私は顔を逸らした。
瞬木、絶対気づいてる。さっきのが私の本音だって。嘘じゃないって。こいつカンが鋭いから。
「 ナマエ。顔上げろ。」
俺を見ろ、そう優しく強く言われて恐る恐る顔を上げる。
そこには見たことのない瞬木の真剣な表情があった。ひとつ大きく心臓が跳ねた。ドキドキして苦しい。
目を合わせるのが恥ずかしくて逸らすと頬を両手で挟まれた。
「俺を見ろって。」
ゆっくり目線を前に戻すと瞬間、瞬木の口が開いた。
「好きだ」
嘘じゃねぇからな、と今までの流れを思い出したのか瞬木はそう言った。そんなの瞬木の顔を見れば分かるよ。
知らない、こんな瞬木知らない…。だって私フラれると思ってたのに。
私の口から出た言葉は嘘だ、だった。
『だ、だって…あんた散々私のこと、馬鹿にしてたのに…』
話す声が震える。
「よく言うだろ、好きな子ほどいじめたくなるって」
『でも…今日は.......』
そういう日だし、そう言うと瞬木は分かった、と言って私の頬からそっと手を離した。
「明日の朝、お前の家に迎に行くから。だから、明日はちゃんと信じろよ」
そう言い残して瞬木は走って帰ってしまった。明日の朝……。いや、でもあいつは嘘が上手いし。
あの性格上、本気にしてたのかよ、とか後で笑われそうだし。
だけど…あんな顔…されたら、分かんなくなる。
私は混乱する頭でなんとか家までの道を歩いた。









次の日の朝、宣言通り瞬木は私の家に来た。
学校に行く準備を整えて玄関で待つ瞬木の元へ行く。
「おはよ、 ナマエ 」
『お、おはよう…ございます、』
ああ、だめだ。昨日のこと意識しすぎて顔見れない…。
「好きだ。」
その言葉にびっくりして顔を上げると瞬木の瞳が私を捕らえて逃がさないと言っていた。急すぎる…。
「もう今日はエイプリルフールじゃないだろ。」
『そうだね…うん。』
そう言うとちゅっと啄むようなキス。
瞬木の大胆な行動に私の動きがフリーズした。大胆というか踏まなければならない段階すっとばしてるんですが!?
『あ、…え…?あの…』
「これで信じるだろ?俺はお前が好きだって。」
勝ち誇った笑みを浮かべる瞬木に私は無言で頷くことしか出来なかった。
「よろしく、彼女さん?」
『は、はい……』
あんなことまでされたらもう信じるしかない。

嘘じゃなかった。





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