short

□敵わない
1ページ/1ページ



今日の練習が終わったのと同時にあたし達マネージャーは練習で使ったタオルをカゴに入れて洗濯をする。そのために、選手が練習で使ったタオルを回収していくのだ。私と葵ちゃんで手分けしてタオルの回収に向かう。
『お疲れ様、好葉ちゃん。』
あたしがそう言うと、好葉ちゃんは優しく笑ってくれた。
「 ナマエさんも、お疲れ様」
タオル貰ってもいい、そう問えば彼女はどうぞ、と丁寧に畳んで渡してくれた。
そんな彼女の心遣いにお礼を言って次の人のところへ向かう。

『瞬木、タオル』
背後から声をかければ彼はこちらを振り返った。
その表情は少し、不機嫌なように見える。なんかあったの…?
「…お前、まずはさっきまで練習して疲れてる俺にお疲れ様ですって言うのが先だろ。」
マネージャーのくせに俺の彼女のくせに、とずんずん近づきながら瞬木が言う。これは近い。うん、近いよ?というかそんな事でキレてるのかこいつは。かわいいとこあるじゃん。……いやほんとに近い、タオル渡すだけでこんなに近くに来る意味が分からない。
内心ドキドキしていたけど平常心を装ってあたしはお疲れ様、と言った。
「遅ぇよ。」
『タオルもう使ったんなら早く渡してよ。葵ちゃんが待ってるから』
急かすように言ってみたけれど、目の前のこいつはあたしを見つめるだけで何も言わない。じーっと見つめられて耐えきれず目を逸らした。ほんと恥ずかしいからやめてくれ。あんま見んな。
仕方ないから瞬木の手に持っているタオルを掴む。が、そのタオルを掴んだあたしの腕を瞬木は掴んだ。
「明日からは一番に俺のとこに来いよ」
何を言うかと思えば。
『なんでよ…』
「お前は一番最初に俺にお疲れ様って言わなきゃダメなんだよ」
『はぁ…?』
なにがダメなんだろうか。
誰がそんなこと決めたわけ、そう言えば今俺が決めた、と言う。まぁ何と独占欲の強いこと。さっきから機嫌悪かったのはそのせいか。
そんなやりとりをしていると瞬木は自分が先ほどまで使っていたタオルをあたしの頭に掛けた。
それと同時に瞬木と瞬木の汗の匂いがする。変態ではないけど、あたしはこの匂いが結構好きだ。変態ではない決して。
誰だって大好きな人の匂いというものは好きになるものだろう。もちろん洗剤の匂いもするけれど練習でかいた汗を拭いている訳だから汗の匂いもあるけど決して臭い訳じゃないしなんというかクセになるというか…。何度も言うけど変態ではない。
顔がついつい緩んでしまうのを悟られないように少し下を向いて隠す。
『瞬木さん…?』
何してるのと、聞くと彼はニヤっと笑って耳元で囁いた。
「俺の匂い好きなんだろ、ナマエ」
『っ…!?』
まさか瞬木にバレていたなんて…!なんて事だ、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「ハハ、タコみてぇ!」
うるさい何がタコだもっとかわいい例えして下さい…!!
勢いよくあたしは頭の上からタオルを取った。そんなあたしを見て瞬木がおかしそうに笑って言う。
「明日から俺んとこに一番に来たら毎回こうやってやるよ」
ぽん、と頭の上に温かい温度が乗っかった。その行為はずるいと思う。
『…気が向いたらね』
そう言うと瞬木は勝ち誇った様な笑みを浮かべる。
ああ、もう。
あたしは堪らなくなってさっさとその場から逃げるように葵ちゃんが待ってる所へ走った。

気が向いたら、なんて言ったけれどきっと明日から瞬木のとこに一番に行ってしまうんだろう。
たぶん瞬木もそのことを知っている。
悔しい、ほんとあいつには敵わない。




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ