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□依存症
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いつもの登校中、私は目の前に現れた大好きな後ろ姿に勢いよく飛び付いた。

『おはよー!』
そう言って飛び付くと彼は歩みを止め、私を引き剥がして距離をとった。
「お前、毎朝後ろから飛びついてくんな! 重いんだよ、デブ」
なんという言葉…。
相変わらず口悪すぎるよ雪村…。
『酷い! デブじゃないもん…!!
それにこうやって飛びつくのは私の愛の表れだよ!』
いらねぇよお前の愛なんか、そんなことを言って雪村はまた歩き始めた。顔がちょっと赤くなってたから説得力ないけど。
今日もいつも通り絶好調な毒舌だなぁ。まぁそこも好きなんだけどね!


休み時間、廊下から雪村の声がしたので行ってみるとやはり居た。
『ゆきむらー!』
正面から勢い良く抱き着くと雪村はうおっ、と声をあげて驚きつつも足はしっかり踏ん張って転ばないように耐える。たくましい!かっこいい!
『会いたかった!やっぱりクラスが違うと寂しいね』
そう言って顔を覗き込むと雪村は頬を赤く染め、キッとこちらを睨んでいた。照れてる可愛い…!
そんな雪村が可愛くて背に回している腕にぎゅうぅと力を入れた。
「だぁぁクソ…っ!離せよ、俺は別に会いたいなんて思ってねぇし、寂しいなんて思ってねぇよ!」
『強がらなくってもいいって、分かってるから。
雪村も私に会いたかったんでしょ?』
そう言うと無言で頭を叩かれた。ので、渋々離れる。地味に痛い。ちぇっ、叩くことないじゃんか。
「じゃあ俺は教室に戻るからな」
『うん、私も。』
「……って、お前はこっちの教室じゃないだろ……ついてくんなよ」
『バレた』
「いやバレるだろ」
えー!私も雪村と同じクラスがいいのにぃ!
ケチ、言うと雪村は私の頭にポンっと手をのせ、ぎこちなく撫でた。自然にそういう事しないで頂きたい。心臓止まるかと思った。
「そう言う問題じゃないだろ…怒られるぞ」
『…………』
確かに先生に怒られるのは面倒だもんね、大人しく自分の教室に帰ろう。
『それじゃ、また放課後にね!』
「はいはい…」
それだけ言うと雪村は自分の教室に戻った。


チャイムがなって生徒達は帰宅をしたり部活に行ったり。
私も大急ぎで大好きな部活へと向かった。
待ちに待った放課後だ。

部室に入るなり私はお着替え中の雪村に抱き着いた。本日3度目のハグ。着替え中だったとはなんてラッキースケベ。
雪村はもちろん嫌がってたけど私は離さない。こんなチャンスないんだから存分に楽しみたい!
『はぁ〜。雪村の体って落ち着く…』
「変なこと言ってないでどけよ…!離れろ!変態!」
雪村の怒鳴りを無視してると強い力で無理矢理剥がされた。え、なに!?
パッと顔を上げると目の前にはとてもかっこいい雪村の顔が視界いっぱいに広がっていた。うわっ、顔近っ…。
「…お前、あんまりしつこいと喰っちまうぞ」
『ぁ……』
雪村の低い声と真剣な表情に私の顔がみるみる紅くなっていくのが分かった。普段押してるから押されると弱いんだよ、私。
というか不意打ちでそんなこと言うのやめてほしい。だって今雪村さん制服のシャツの前開けたままだよ!?それであんな台詞言うなんて…!
目を逸らそうとしたけれど、逸らすことさえ許されないような目でこちらを見つめるものだからそのまま2人でしばらく見つめあった。
「おーい、そこのカップルさん。
イチャついてないで早くジャージに着替えろよー」
誰かの声で私と雪村はハッとした。
自分の耳まで真っ赤になっていると感じて触ってみるとすごく熱くなっていた。雪村の方を見ると、彼の顔も林檎のように真っ赤になっていた。
「お、お前も早く着替えてグラウンドに来いよ…」
『う、うん。分かった…』
何だか変な空気になってしまったので急いで女子更衣室へ向かい着替えを済ませる。
ああもう!何なのさっきの雪村ってば…。かっこよすぎるじゃん。もう1回言ってくんないかな…。
あ、なんか思い出したら無性に雪村の顔を見たくなってきた…。会いたい…早く着替えよう。
依存症だなぁ、これ。


グラウンドに行くなり私から雪村への熱い抱擁。
「…離れろよ…。」
『やだ』
「離れろ…」
『やーだ!』
「あー!誰かコイツ離してくれー!!」
そう叫んだ雪村の声に誰も動かなかった。
残念だったね、雪村。誰も私たちのリア充ムードには入って来れないみたいだぞ。
「そもそも、お前は何でそんなに直ぐに引っ付くんだよ…」
呆れ気味でそう聞かれて笑顔で答える。
『だって好きだもん、好きで好きで大好きなんだもん…雪村のこと。
雪村がいないと私、不安で仕方ないんだよ、すぐ会いたくなるし。
だから、んー……つまり、雪村依存症!』
なんてね、そう言って笑う。ちょっと恥ずかしいことを言ってしまった。考えずに発言するもんじゃないね。
てっきり雪村もバカにしてくるかと思ったけれど、彼は小さく震えていた。
「お前……」
雪村が何か言ったけど小さくて聞き取れなかったので耳を傾けた。
『え、何?』
「ずりぃ……」

「かわいすぎんだよっ…!!」
チクショー、そう叫びながら雪村はゴールに思い切りシュートを決めた。
ナイスシュート。





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