short

□今年も…。
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お正月。
除夜の鐘を聞いてすぐ寝た俺はヒロトさんの声で目が覚めた。
「ほら、マサキいつまで寝てるつもり?
もう皆は仕度済んでるんだよ」
寝起きで頭が働かない俺にはヒロトさんの言ってる意味が分からなかった。
仕度?…部活は今日は休みのはずだ。
「……ヒロトさん、今日なにかあるんですか?」
開ききらない目を擦りながらそう言うとヒロトさんはいいから着替えて、と言って部屋を出ていった。
1人、部屋の中でしばらくぼーっとした俺はやっと正常に働く頭で思い出した。そうか、今日は正月だから初詣に行くって言ってたんだ。
ちょっと面倒だと思いつつも皆で初詣に毎年行く事が少し楽しみではある。俺はひとつ背伸びをしてからのそのそと立ち上がり着替えを始めた。





皆が集まる広場に行くと、そこにはナマエの姿があった。
『マサキ、おはよう!』
そう言うナマエの雰囲気はいつもと大分違っていた。
着物のせいなのか、それとも少しだけ化粧をしているからなのか、わからない。
けど、可愛い。
「……………。」
俺が無言になってるとナマエは怪しげにこちらの顔を除きこんだ。
『…どーせ似合わないとか思ってるんでしょ。
いいよ、別に。自分でも思ったし…』
似合ってる、そう思う胸の中とは裏腹に俺の口から出たのはナマエを傷つけるような言葉。
「なんだ、自分でも分かってんじゃん?
お前にそんな綺麗なのは似合ってないんだよ」
『……なによ。
ちょっとくらい可愛いとか言ってもいいじゃん…!』
いつもと違いすぎるナマエの姿に俺も普段の俺らしくない様なことを口走ってしまう。言い過ぎた、そう思った時には既に手遅れなのがだいたいのパターン。後戻り出来なくなっている。
こういう時はいつもケンカになって収拾がつかなくなるのだ。
「可愛くないのに誰に可愛いって言うわけ?
あ、もしかして自分のこと可愛いとか思っちゃった?」
どうして今日はこんなに思ってもいないことを言ってしまうんだ。いつもが素直なのかと聞かれるとそうではないけれど、今日は自分でも分かるくらいに嫌な奴だ、俺。
目の前のナマエは目に涙を溜めて今にも泣き出しそうだ。そんな顔させたかった訳じゃない。
『じゃあ何で……何で、私と付き合ってるのよ…』
そう言い残してナマエは屋内へと入っていった。たぶん、ヒロトさんのところにいって慰めて貰うんだろう。いつもあいつはそうだ。
「くそ…」
ほんとはあんなこと言いたかったんじゃない。ヒロトさんのところにも行かないでほしい。
そんなこと、アイツを泣かせた俺が言える訳がないけれど。


初詣に行く時にはナマエの顔に笑顔が戻っていた。
きっとヒロトさんのおかげだ。感謝はしているけれどちょっとムッとしてしまう。自業自得と言われればその通りだ。
「マサキ、またナマエちゃんとケンカしたんだってね」
ヒロトさんは表情を変えずに淡々と言った。
黙って頷くとヒロトさんが俺の頭にチョップをかました。
「いてっ…!!」
容赦のないチョップだった。痛すぎる。
「泣かせたら駄目だって何回も言ってるのに。
自分が思ってることをそのまま言えばいいじゃないか」
そんなこと言われても俺はヒロトさんみたいに素直じゃない。
あまのじゃく、ひねくれ者だ。
「確かにマサキは素直じゃない。
でも好きな子にあんなことばっかり言ってるとその内お前から離れるよ、
マサキはそれでいい?」
そんなことはわかっていた。
ナマエを傷つけていたらその内アイツは俺から離れるだろうって。だけどそんなの想像もしたくない。
「…嫌だ。」
俺が小さい声でそう言うとヒロトさんは優しく笑って頭を撫でてくれた。
「嫌なら素直になること。
ナマエちゃんに可愛いって言ってあげなよ?」
うん、そう返事をして俺はアイツの元へ向かった。

『…マサキ、』
何も言わずにナマエの手を取って人混みから離れた場所に連れて行く。
「……その、ごめん。」
ナマエが驚いた顔をして俺を見た。
そりゃそうだよな、俺が自分から謝ったの初めてだし。
「…俺、お前に酷いこと言った。
ほ、本当は…、可愛くない、とか思ってない…」
黙って俺の話を聞く、
そんなナマエの目を俺はしっかり見つめる。
これから言うことが本当のことだって伝わるように。
「俺はお前のこと可愛いって思ってるし…、好きだから付き合ってるから…」
うわぁ、何だこれ…。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇか…くそ。
私も好きだよ、ナマエがそう言ってふわりと微笑む。顔を赤くしてとても嬉しそうに。
何だよ…不意打ち過ぎんだろ、その顔。
「まあ、その、年明けそうそう泣かせて…ごめん。」
そう言うとナマエはもういいよ、と笑った。目に涙が溜まっている。
その涙は俺を苦しめない涙だった。ナマエのこんな泣き顔を俺は知らなかった、初めて見た。
これから少しくらいは素直になってみようかな。徐々に少しずつだけど今年の目標にでもするか。
俺は、ぎゅっと力を込めてナマエの手を握りひとり胸の中でそう決意した。

今年もいい年になりますように。



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