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□クリスマス
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12月25日といえばクリスマス。
世の恋人たちがウキウキ気分な今日、私は部活で学校に来ていた。
サッカー部のマネージャー。それはウチの学校の女生徒なら誰でも羨ましがる言葉。実際そんなに羨ましがられるような事はやっていない、というかマネージャー業は意外と力仕事だし体力を使う。選手ひとりひとりに目を配り、彼らの体調や成長などに気づかなければならないので練習中や試合中は常に集中していないといけない。
イケメンが多いから、という理由でよくマネージャーになりたい、だとかいう子たちが居るけれどそんな子たちに限ってすぐ辞めていくのだ。
まぁ、私の彼氏のヒロトもそのイケメンの内の一人だけれど。
「やぁ、ナマエ。 おはよう」
背後から声がして振り返ってみればヒロトとイケメンだと騒がれている内の3人、晴矢と風介とリュウジが仲良く並んでいた。
『おはよう、ヒロト。 あと皆も』
俺たちはついでかよ、晴矢が言った。
「ナマエ今日はめずらしく早いね。いつも時間ギリギリに部室に来るのに」
雨でも降るかな、ヒロトが可笑しそうに言う。
失礼な、私だってやれば出来るのに。
なんて、本当は…。
『なんか目が覚めちゃっただけ』
言えば、4人とも口々にあのナマエがとか、雨じゃなくて雪が降るんじゃないかとか言いたい放題。
『酷い、皆は私のこと何だと思ってるの…』
遅刻魔、4人は口を揃えてそう言った。
あんまりだ…。 そりゃあ遅刻しそうになったことはあるけど、まだしたことはないのに…。




練習前だって言うのに皆はもうサッカーを始めていた。
はしゃぎながら遊んでいる声を聞きながら私はベンチに座り、今年のスケジュール表を眺めた。
なんと29日まで練習が入っている。
こりゃ今年中はもうヒロトと遊べないかもな。
クリスマス、一緒に過ごしたかったなぁ。練習の後はさすがに疲れてるだろうし…。
そんなことを考えながら見ていたスケジュール表から顔を上げるとヒロトと目が合った。
ヒロトが優しく微笑んで手を振る。王子様みたい。
軽く手を振り返してから私はドリンクの用意をする為にベンチを離れた。







「ごめん、ナマエ。練習終わりで疲れてるだろうけど、この後オレに付き合ってくれるかな?」
今日の練習は終わりだと言う監督の挨拶の後、ヒロトがこちらまで来てそう言った。
やった、と思う反面ヒロトの方が疲れてるのではないかと思う。
『私は大丈夫だけど……、ヒロトは大丈夫なの?
疲れてるでしょ…?』
そう言えば、オレも大丈夫だよ、ヒロトはいつものように目を細めて優しく微笑んだ。
好きだなぁ、ヒロトのこの表情。


帰る仕度をすませて私とヒロトは一緒に部室を出る。
「それじゃ、今日はオレ用事があるから先に帰るね。
最後の人、鍵よろしくね」
りょうか〜い、というリュウジの返事を聞いてヒロトが静かに部室のドアを閉める。
まだ5時半だというのに外は暗かった。そりゃそうだ、冬だしね。はぁ、と息を吐けば真っ白いもくもくが出た。
寒いなぁ、やっぱりマフラー持ってくれば良かった。
手を繋いでいない方の手で軽く首を擦っていると、ふわりと暖かくて柔らかいものが掛けられる。
「寒いんでしょ? オレの使っていいよ」
私の首に巻かれたのはヒロトがさっきまで巻いていたマフラーだった。
彼氏が彼女にマフラーを貸してあげる、そんなありきたりな行動をするヒロトがカッコいい。
いや、ヒロトだからカッコいいのかな…。というかもうヒロトだったら何でもかっこいい。
ありがとう、そう言うと笑顔でどういたしまして、と返してくれた。
ヒロトも寒いだろうから返す、なんていっても絶対受け取ってくれないのは目に見えている。だから私は素直にマフラーを受け取って、さっきよりずっとヒロトにくっついて歩いた。



寒いけどごめん、公園のベンチに座ってヒロトがそう言った。
『ヒロトが居るなら寒くても大丈夫だよ』
ありがとう、ヒロトは言いながら私の頭を優しく撫でてくれた。
『クリスマスだね、今日。
ほんとはヒロトと二人きりで過ごしたかったの』
本音を言ってみれば、ヒロトは静かに私を抱き締める。
『ちょ、…っと…!?』
急な行動に私が1人フリーズしていると耳元で優しい声がした。
「オレもだよ。
オレも、ナマエと二人きりで過ごしたかった」
静かなところで、そう言った後にヒロトはでもさすがに寒いね、と笑った。
「あ、そういえばナマエに渡したい物があるんだ」
そう言うヒロトが部活用のエナメルバッグから取り出したのは小さめのかわいらしいラッピングがされた箱だった。
開けて、そう言うヒロトの言う通りに箱を開けると中に入っていたのは二つの指輪。
『こ、これ……って、』
「ペアリング。 ナマエがオレのものだって証」
なんてキザなんだろう。こんな事サラッと言えてそれがサマになるなんてさすがだなぁ。
言葉を無くしているとヒロトが恥ずかしそうにありきたりだしキザすぎるとは思ったんだけど、と頬をかいた。
『嬉しい…。』
すごく嬉しい、自然と口からそう零れた。箱に入った2つのリングをじっと見つめているとその箱ごと奪われる。
「俺が思ってたより何倍もいい顔を見せてくれるんだね、キミは」
ヒロトがリングの内のひとつを手に取り、丁寧に私の左手の薬指にリングを嵌めた。
私も続いて彼の左手の薬指に残りのひとつを嵌める。
顔を上げると何とも愛おしそうな顔をしたヒロトがこちらを見ていた。そんな顔見せられたら胸がキュンキュンと鳴いてどうしようもないよ。
見つめ合うことに耐えられず俯くとヒロトは私の背中を抱き寄せ、ぎゅっと暖かく包んでくれた。
『ヒロト、ありがとう…』


寒いしツリーもケーキも無い、だけどこんなクリスマスもいいなって思えたのは全部ヒロトのおかげだね。



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